導入事例BIM の導入でさらなる高みへ

2022.03.31

原口 広

(有)原忠

BIMソフトVectorworksを選んだ理由

鉛筆からCAD 移行時に選択したソフトはMiniCad(現Vectorworks なので以降はVectorworks と表現)という2次元3 次元ハイブリッドソフトでした。なぜVectorworksを選択したかというと、ある雑誌でVectorworks を使った設計についての記事を読んだのがきっかけでした。その内容はハイブリッドというソフトの特性を活かし、2 次元から3 次元(その逆も)へ瞬時に切り替えさまざまなアングルから詰めていく手法等、とても衝撃を受けました。また、その設計モデルがものすごく格好良くてノックアウトされたのを今でも鮮明に覚えています。「もうコレ(Vectorworks)しかない」という感じでした。

Vectorworksの特徴

私が使用しているのは、Vectorworks2021 のArchitectという建築に特化したグレードで、その特徴は、BIM ソフトですがとても汎用性が高いという点です。それを象徴するツールとしてレコードフォーマットという機能があり、これはどういったものかというと、例えば「窓」で説明します。

建物それぞれの窓に省エネ基準性能等を表示させなければならない場面が多くあると思いますが、このレコードフォーマットはそれら省エネ基準情報をすべて与えることができます。そして、さまざまなシチュエーションに応じて必要な情報だけを引き出すことができるツールです。具体的に言えば建具表ですが、それらの情報は文字ツール等で書かずにマウスクリック等の操作で必要な情報を選択することにより、建具表として完成させることができます。

そしてさらには、それらの情報はこの先で省エネ基準が改正されたとしても、設計者自身で簡単に修正・変更することができるのです。今回は一例として窓を挙げましたが、窓に限らず建物の各部位に設計者が必要と考える情報を自由に与えることができます。

最近はAR やVR のようなビジュアル系に目が行きがちですが、個人的にBIM の特徴、重要な部分はInformation・情報だと思っていて、設計者が意のままに設定できるこのレコードフォーマット機能はVectorworksの大きな特徴の一つだと言えます。

ベクターワークス1 分で作る建具表!
https://youtu.be/t6RbnmeJOIs(YouTube)

CADとBIMの違い

CAD とBIM の大きな違いは、先にも書いたようにモデルに情報を持たせることができるか否かですが、その他には、もう語り尽くされている感はありますが図面の整合性です。例えば設計変更があった場合、CAD だと変更に関連する図面を探し出して、すべてを手作業で修正しなければなりませんが、BIM の場合はモデルを修正すれば関連する図面がすべて書き換わります。これはCAD とBIM の設計アプローチが全く違うからで、CAD は平面、立面、断面、等1 枚ずつ描いて仕上げますが、当然これら図面同士はリンクしていない独立した図面です。一方、BIM はまずモデリングをします。そしてそのモデルから各図面を取り出すという作業工程になるため、どの図面もモデルを通してリンクしていることになります。結果的にモデルを修正するだけですべての変更に対応できるし、整合性が保たれるということになるのです。想像してみてください……かなり煮詰まった状態で設計変更が生じた場合を……CAD とBIM とではその修正作業の労力と時間、精神的な負担の違いは計り知れません。

また、BIM はモデルと連動したワークシートを作成できるのも大きな特徴の一つです。CAD の場合、例えば仕上げ表や面積表を作成する時は表罫線を直線ツール等で引く必要があり、さらに表自体は何かテンプレートやシンボルのようなものがあったとしても、文字や数字は文字ツールで書き込んでいるのではないかと思いますが、BIM の場合はモデリングさえ終えていれば、モデルから瞬時にそれらのワークシートを作成させることができます。線を引いたり文字を書き込んだりという作業は一切必要ありません。強いて挙げるとすればレイアウトを整えるくらいでしょうか。しかもモデルと連動しているので、部屋面積の変更があった場合でも何ら慌てる必要はありません。

仕上げ表や面積表に限らず、Vectorworks では設計者が必要とするどのようなワークシートでも、線や文字を手書きすることなく自在に作成することが可能になっています。ただしここで言っておかなければならないのは、これらの作業は専用ソフトのような「完全自動」ではない、ということです。汎用性が高いがゆえに取り出す過程(作業)はそれなりに必要です。しかし安心してください。慣れれば何ら難しい作業ではありません。むしろ設計者の頭の中で可能性が広がり、どんどん新しいアイデアが浮かんで楽しくなっていくと思います。それがVectorworks の特徴です。

BIM を活用した実際の事例 …【新築】登り梁の家

BIM 手法は新築でもリフォームでも(それ以外でも)活用できます。

(左)登り梁モデリング、(右)登り梁現場画像
(左)屋根断熱を加えた屋根構造モデリング、(中)屋根断熱+付加断熱画像、(右)リビング内観

BIMを導入した経緯

第一に立体的に取り組める設計手法に興味があったから。そして第二は、せっかくPC(ソフト)を駆使し設計できる環境が整っているというのに、2 次元手法で設計を済ませることに納得できなかったからです。これは後付けではなく、Vectorworks 導入時から思い描いていたことなので、BIM という新たな設計手法を知ってからは没頭しました。

~BIM導入後~

しかしながら、BIM ソフトは甘くありませんでした。Vectorworks ベンダーA&A のHP で当時(2010 年)公開されていたチュートリアルをひたすらやったのですが、なかなか思うようにいきませんでした。そして翌2011 年になんとかなりそうな気配になり、年々徐々に感覚をつかんでいきました。「そんなに時間がかかるのか?」と思われた方もいるとは思いますが、それはVectorworks の機能がとても豊富で汎用性に富んでいるため、そして当時BIMについての情報が乏しく独学で手探り状態だった私はなおさら時間がかかったという訳です。

現在ならA&A が定期的に講習会を開催していますし、ネットにもさまざまな情報が上がっているので、それらを参考にすれば習得期間も短くなると思います。また、他のBIM ソフトを選択するにしても建築設計自体がBIM 化へと進んでいるので、習得する環境は以前と比べるとかなり整ってきていると思います。

BIM を活用した実際の事例 …【新築】大黒町の家

(左)BIM でモデリングしたエントランス、(中)完成したエントランス、(右)台所の現場完成画像
モデルから取り出しただけの台所収納図面。
*寸法および注釈は記入

設計の進め方

BIM 導入後、設計の進め方は激変しました。先にも書きましたが、まずはモデリング、その後図面取り出しという流れは激変した一つですが、その他にプレゼンテーションの方法が挙げられます。

2 次元時のプレゼンツールは色付けした図面が中心で、力を入れる時はスケッチパースを用意する程度でしたが、BIM 手法になってからはモデリングデータが入ったモバイルPC 中心になりました。方法はモバイルをクライアント宅のTV モニターに接続させてもらい、その画面上でモデルをグリグリ動かしながら行うというものです。

実はこのプレゼン方法は自然とこの形になったもので、以前、古民家を改築する案件のファーストプレゼンの際、プランに込めた思いの丈をクライアントに伝えようとした時、モデルそのものでプレゼンする以外の方法は自分の中では完全になくなっていました。

その時はこちらのプレゼンが熱くなるのはもちろん、モニター越しに自邸の改築モデルを見るクライアントもテンションが上がっていたようで、「この掃き出しサッシを中連窓にしたら陽の入り方はどうなる?」「この下がり壁もう少し上げることはできる?」など、紙媒体時ではまず出てこないような具体的な質問・意見をたくさんいただきました。そしてこのような状況時、紙媒体の場合は一旦持ち帰り変更して後日再打合わせになるのですが、BIM ソフトなら即座にモデルを修正できるので、その場で確認してもらいその時に完結できます。この差は時間にすればどれほどの短縮になるでしょうか、またどれほど効率化されたことになるでしょうか、深く考えるまでもありませんね。

それから、クライアントとスケジュールが合わない時は、LINE やクラウドでモデルデータを共有、またYouTube でクライアントだけ閲覧できるように限定公開して設計を進めるケースもあります。

プレゼンテーションは仕事を獲得するか否かのとても重要な部分です。仕事につながることもあるし、当然失注したこともあります。そんな中で私がいつも思っているのは、たとえ仕事につながらなかったとしても悔いが残らないようにしたいということです。それがこのプレゼンテーションスタイルに自然とつながっているのだと客観的に思います。たまに「プレゼン燃え尽き症候群」(勝手に命名)になる時もありました。

余談ですが、あるプレゼン時のクライアントからの反響が大きく、(感動して?)プレゼンしているTV モニターをスマートフォンで撮影していたほどです。

BIM を活用した実際の事例 …【リフォーム】木々の家

データの可視化 軸組み材で着色しているものは取り替え、または新規材料を使用するという意味で、プレゼンや現場作業で使用。これら着色は手作業ではなく、Vectorworks には【データの可視化】という機能があり、設定すればワンクリックで必要なオブジェクト(材料)を可視化できます。

(左)クライアント宅でプレゼン。当時はHDMI 接続だったが、現在はワイヤレス接続でスッキリ
(右)BIMモデルを使用して業者と打ち合わせ

リモートワーク

Vectorworks を含めBIM ソフトは一つのファイル(プロジェクト)を複数人で仕上げていくことができます。もちろんコロナ禍の現在、その他出張中などでそれぞれが別々の場所に居ながらのリモートワークが可能です。

それから、他業種とのファイル共有に関しては、代表的なものとしてIFC ファイルでの受け渡しが可能です。

BIM を導入して一番感じるのは「もう既存(2 次元CAD)の設計手法には戻れない」ということです。理由はたくさんありますが、クライアントとのイメージ共有が容易であること、3 次元化により隅々までモデリングでき、今まで見えていなかった部分があからさまになること、設計の高効率化、データ(情報)管理によるメンテナンス向上……等、BIM 手法を習得してしまえばマイナス要素が見当たらないほどです。

またデメリットとしては、すべて個人差があるものですが、ライセンス費用が高いこと、習得期間の長さ等でしょうか。

BIM 導入はそれぞれの事務所(設計者)の判断ですが、皆さんの卓越した設計技術を2 次元、3 次元だけで終わらせるのは実にもったいなさすぎます。その素晴らしい技術・知識をBIM でさらなる高みへと、是非つなげていってほしいと思います。

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プロフィール

原口 広(はらぐち・ひろし)

福岡県田川市(有)原忠 代表取締役。木造住宅を中心に設計施工を手掛ける。Vectorworks との出会いはその前身のMinicadから。当時はマウスで線を引く設計手法が納得できず、なかなか作業が進まなかった。しかし、BIM 手法をきっかけに一気にVectorworks Architect の楽しさにはまる。基本的に設計から現場竣工までVectorworks ワンストップ。最近では少しでも多くのユーザーにVectorworks の楽しさを知ってほしいとの思いから、RoomVectorworks という情報交換できる場を、博多のレンタルスペースにて開催中(現在はコロナ禍の影響で中断)。『VECTORWORKS ARCHITECT で学ぶ住宅設計のためのBIM 入門』(ボーンデジタル)、『Vectorworks.BIM』(blog)、『Room Vectorworks』(YouTube)など執筆活動も展開している。