導入事例地域一体となって協働体制を構築し、BIM、そして建設DXを推進

2022.03.31

仲川 昌夫

ブレンスタッフ(株)(山形会)

我々は、建築プロセスのフロントローディングを効率的に行うことのできるBIM を活用し、お客さまにとって最良の建物を提供するため、「建てる前に建てる」のコンセプトのもとに建物の「性能とコスト」の見える化に取り組んでいます。BIM を導入して以来、紆余曲折を経て、ようやく弊社設計案件のBIM 使用率100%を計画できるところまできました。これまでの我々の取り組みについてご紹介します。

BIMを導入した経緯

2015 年に内閣府の地方創生事業「先端的建築設計(BIM)拠点化事業」として山形県庄内町と共にBIM を導入しました。地方で急速に進む少子高齢化と、建設業界の長時間労働・担い手の不足、デジタル化の遅れを建設DX により解決につなげたいとの思いから実現したものです。

思い起こせば、BIM を導入するきっかけは2001 年に鶴岡市に設立された慶應義塾大学先端生命科学研究所との交流でした。同研究所では、最先端のバイオテクノロジーを用いて生体や微生物の細胞活動を網羅的に計測・分析し、コンピューターで解析・シミュレーションして医療や食品発酵などの分野に応用しています。「シミュレーションをきちんと行えば、1 万回やっていた実験を100 回ぐらいにまで減らしても的確なデータを得ることができる」と教えていただいた際に、建築も実際に施工する前にコンピューターでシミュレーションをきちんと行えば無理や無駄をなくして効率化できると感じたことを覚えています。しかし、当時は一般の建築設計事務所がコンピューター上で建物をシミュレーションできるような環境は整っておりませんでした。その後、建築業界にBIM が紹介され、多方面の関係者と情報交換を繰り返しながらBIM を導入し、現在に至っています。

竣工した山形県遊佐町役場新庁舎。鳥海山などの景観に配慮
                   BIM による山形県遊佐町役場新庁舎の外観パース

使用BIMソフトと社内運用

現在はAutodesk 社Revit を主力ソフトとして使用しています。当初はシェアの高いGRAPHISOFT 社Archicad も同時に導入し試行的に運用を開始しました。Archicad は設計者にとっては直感的に操作しやすく自由度が高いというメリットがありますが、我々は建築プロセス全般に及ぶDX を目指していることから、大手~中堅ゼネコンの多くが導入し、意匠・構造・設備との連携が取りやすく設計~施工~維持管理まで一貫して使いやすいRevit 一本に絞ることにしました。設計者にはせっかく身に付けたスキルとArchicad のメリットを手放すことになり大きな負担をかけてしまいました。「二兎を追う者は一兎をも得ず」の教訓のとおり猛省しつつも、早い段階で一本化したことによりRevit のスキルが向上し、社内のBIM 活用が加速したと感じています。

BIM スキルの習得にあたり、導入初期は、外部講師を社内に招いての講習会や外部の研修会に参加する機会を多く設けました。当時は業界内でも確かな情報が多くない中での情報収集を進めると同時に、実案件業務でのOJT を通じたBIM スキルの修得に注力し、大手ゼネコンからのBIMモデリング業務やBIM を活用するパイロット事業への参加等を行ってトレーニングを積みました。現在は、ゼネコンのアライアンス拡大の活発化に伴い、設計施工案件の設計補助+ BIM モデリングの業務、アプリケーションの活用を通じてスキルがさらに向上しつつあります。また、自社設計案件でのBIM 活用を通じたOJT と課題の把握および解決に至る経緯は弊社の大きな財産になりつつあります。

新人およびBIM 初級者には社内研修を通じたOFF-JT を初期に行います。BIM 導入初期においてIT 人材を採用配置したことにより、社内研修での基礎的なトレーニングはもとより、社内アプリケーションの開発から社外向けのトレーニングを行うまでの実力を身に着けてきました(RevitおよびDynamo for Revit)。IT・デジタルに関するスキルを有する人材は欠かせない専門分野と考えています。

BIMの活用事例と導入後の変化

導入初期から現在に至るまで、弊社設計案件で実証実験的にBIM を活用しながらステップアップしてきました。導入初期は設計終了後にBIM モデルを作成することで施工事業者との合意形成の円滑化を進め、次のステップとして施工前に専門工事事業者を含む工事事業者からの情報をBIM モデルに反映することで、干渉チェックや施工工程での設計BIM モデルの活用方法に関する課題の顕在化を行っています。山形県遊佐町役場新庁舎建設事業では実施設計段階からBIM を導入し、遊佐町全職員を対象に新庁舎BIM モデルのVR 体験会を行いました。将来を担う若手職員の意見を取り入れることは町の設計指針であったため、BIM 活用により円滑な意思疎通と合意形成ができたことを評価していただきました。施工工程においては設計者・工事監理者として、意匠・構造・設備の干渉チェックや納まりの確認にBIM を活用し効率化を図ることができました。昨年度に国土交通省のBIM モデル事業・連携事業として実施したBIM モデルからの二次元施工図作製業務のケースメソッドにおいては、BIM モデリングを効率的に進めるための社内ルールの整備と一定以上のBIM モデリング技術を条件として、二次元の設計図から二次元の施工図を作成する従来型業務比約40%の工数削減が可能との試算値を建築BIM 推進会議に報告しています。

社内においても、双方向・共有の考えが根本にあるBIMを導入したことにより、意匠・構造エンジニアのリアルタイムなコミュニケーションが円滑化し、設計品質の向上につながっています。BIM モデルから図面をはきだす際に二次元での加筆が減少しない等の大小の課題がありますが、若手社員を中心に課題解決に向け積極的に取り組んでいます。実案件を通じて課題を発見し解決することで社内体制もさらに強化していけると実感しています。

(左)議場のパース、(右)町産の杉材を使用した温かみのある議場
(左)南ロビーのパース、(右)南ロビーにも杉材を使用

他業者とのBIMを介したデジタル連携

2019 年に山形県庄内地方の有力総合建設事業者4 社と弊社が中心となり、建築設計事務所、総合建設業、専門事業者69 社が参加して、庄内BIM 研究会が発足しました。現実の業務でのBIM を活用した連携は道半ばではありますが、研究会を通じた情報共有とパイロット事業により地方でのBIM 普及モデルを模索しています。今年度は、国土交通省「令和3年度 BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(中小事業者BIM 試行型)」に東北地方としては一者のみ採択され、設計・施工の枠組みを超えたデジタル連携を進めています。弊社が山形県鶴岡市から委託された「鶴岡市先端研究センター」設計業務の設計BIM モデルを土台に、地方の施工事業者が施工で活用しやすいBIM モデルとワークフローを検討しています。中規模以下の建築プロジェクトにおけるBIM モデルデータの活用方法の例を示すことにより、他の地域にも共通する問題に対して一つのアプローチを提言することになると考えています。

地方におけるBIM は、一企業で取り組むのではなく協働体制を構築して推進していくことが重要であると思います。

※国土交通省「令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(中小事業者BIM試行型)」採択事業概要
https://r03.bim-jigyou.jp/trialtype/overview.html

空から見た新庁舎 
現場にて建築・設備の納まりを協議

BIMを活用した今後の展開

BIM を活用するための環境は、ここ数年で大きく変わりました。ハード・ソフトウェアに加えてアドインの進化も著しく、これからはさらにBIM が身近になっていくと考えられます。身近になるBIM を、将来を担う世代の社員がさらに活用することにより、従来のワークフローや業界、人の枠組みを超えた新しいネットワークの形成と建築プロセスのフロントローディングによる地方版建設DX の加速を目標に今後の展開を計画しています。

前述の国土交通省事業による施工工程におけるBIM 活用のケースメソッドに加え、自社設計案件による基本設計段階からのBIM 活用をさらに進めてまいります。また、我々が従来からの中核事業として技術を蓄積してきた構造設計とREAL4(データロジック社の鉄骨製作BIM モデルソフト)を活用する鉄骨製作図業務の経験を活かし、躯体設計+生産設計をパッケージとするエンジニアリングサービスの提供による新たな価値の創造を計画します。

BIM は建設業界を明るく照らし、業界内外への広がりの橋渡しに欠かせない新しい建築のプロセスです。当面は地方でのBIM 普及の加速を目標に、これらのBIM モデル情報を蓄積し、県や地方自治体が進める地方版DX との連携と我々が培ってきたさまざまな分野のネットワークを活用した地方における人とデジタル情報のプラットフォーム形成に向け、業界内外の人達との関係構築と議論を日々進めてまいります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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プロフィール

仲川 昌夫(なかがわ・まさお)

ブレンスタッフ(株)代表取締役。1991 年に山形県鶴岡市にブレンスタッフ(株)設立。東北工業大学建築学部卒業後、首都圏の設計事務所での構造設計、IT 会社での構造計算プログラム開発などを中心に実績を重ねる。地方の技術者を活かしながら、お客さまのさまざまなご要望にお応えしていくため、1998 年に東京事務所を、2015 年にはBIM センターとして庄内町事務所を開設。現在は、山形県建築士事務所協会副会長を務める。山形県庄内地域にBIM を普及促進するため、地元の有力総合建設事業者とともに2020 年庄内BIM 研究会を立ち上げる。本業以外にも発起人となった自転車ツーリングイベント「じろ・で・庄内」では実行委員長を務め、地域のネットワークづくりに取り組んでいる。