導入事例小規模建築士事務所におけるBIM の効果と変化

2022.03.31

畝 啓

畝啓建築事務所(株)(京都会)

導入のきっかけと期待

弊所がBIM を導入したのは2012 年です。きっかけは、煩雑な業務の効率化です。マンパワーで業務をこなす方法とは逆に、BIM の導入で最小限の労力で問題を乗り切れるかもしれないという思いでした。期待したのは、3D パースによるプレゼンテーション、製図の効率化、品質の向上でした。この時点でBIM はCAD の延長線上にあり、その代替えとして捉えていました。

選んだBIM ソフトは、福井コンピュータアーキテクト(株)のGLOOBE です。選択のポイントは、小中規模の一般建築物の実施設計ができること、木造住宅等のディテールに対応できること、などを考えましたが、BIM に対する知識はほとんどなかったので、その確証があったわけではありません。決め手は、国産で日本の設計製図に精通している、法規チェックができる、マルチ5 画面で作業ができることでした。図面以外に求積やリスト・表、法規チェックなどの作業をオールインでできるということは、他のソフトやファイルを併用する必要がなくなります。この情報の一元化がプロジェクト管理に有用と期待し、マルチ画面に関しては同時にさまざまな角度から作業を確認できると魅力に感じました。

個人住宅 竣工写真

導入後の効果

BIM への切り替えを徹底するため、GLOOBE をインストール後、過去データの掘り起こし以外は、従来のCADを使うことをやめました。ソフトの操作自体は比較的シンプルでCAD より簡単に感じました。特に基本設計では、計画初期段階での3D モデルによるプレゼンテーションや、それにリンクした提案図面の作成、面積等の数量の把握は、後のフロントローディングにつながる手応えを感じました。また、図面の整合性を確認する必要がなくなるという効果もすぐに感じられたと思います。しかし、設計業務全体を通して見たときには20%程度の運用率で、残りの業務を完結させるまでには少し時間と工夫が必要でした。本当の効果はCAD とBIM の違いを理解しながらの変化の中で少しずつ知ることができました。

個人住宅 BIM モデル

CAD とBIM の違い

①作業の見えにくさとワークフローの違い

BIM の設計では、CAD で図面を一枚ずつ重ねていく作業とは違い、一つのモデルの密度を上げていくという作業になります。CAD で製図する場合は線を引くたびに図面密度を確認することができたのですが、BIM の場合は入力したモデルデータが実際の図面にどのように反映されるのか見えにくいと思います。3D で視覚的に作業が進んでいるようでも、正確なデータ構築ができていないと図面としては表現されない。このことが、BIM で実施設計はできないと言われる理由かと思います。同時にこの見えにくさは、従来のワークフローでは非常に非効率になりました。

当初、従来のフローに合わせBIM データの入力を行っていました。抽出される2D 図面に加筆修正するという作業は、本来のBIM とは程遠い状態だったと思います。特に時短効果は皆無でした。そこで図面の進捗を無視し、打ち合わせ等では作業中の3D モデルを多用しました。得られる情報をどんどんBIM モデルに入力していき、この入力が正確であれば、あとはBIM が勝手に整理し図面化してくれるようなイメージです。このやり方で設計効率が上がったと感じました。

必要なことは図面作成ではなく、建物を建てるための情報を整理すること。CAD での製図作業や図面表現を踏襲しようとすれば、欲しいときに欲しい情報がBIM データから効率よく引き出せないということです。図面にこだわらず、3D モデルや数値で表現しながら設計を進めることがBIM では大切だと思います。そのためには、設計プロセスに合わせてBIM モデルの密度を上げていくためのワークフローを一から見直す必要がありました。

木造住宅 ディテール
(左)木造住宅 竣工写真、(右)木造住宅 BIM モデル

②多様な伝達手段の取捨選択

BIM を使った設計で最も分かりやすいことが、3D データを活用するという点だと思います。これは視覚的にはさまざまなところでてき面に効果を得られます。と同時に、図面が必要なのか? という疑問も感じます。BIM を理解しようとするときに、図面ありきで始まっていた建築が、BIM モデルありきに変わってきたのだと考えると理解しやすいと思います。図面から始められることには限界があり、そこには専門的で高度な知識や技術、時間が必要でした。逆にBIM モデルから始められることは、専門性の高い情報を汎用性の高い伝達手段に簡易に変換できる。つまり、図面やパース、数値化した表、リスト等を、設計者は相手の要求に応じて使い分けできることがBIM とCAD の設計手法の大きな違いかと思います。粗なモデルから密なモデルまで、設計プロセスを通してこの考え方は一貫していると思います。

施工者や協力事務所などの関係者間においても、図面をBIM モデルに置き換えることにより、建築に関わる全ての人たちとの合意形成がスムーズに行われ、皆が同じ方向を向いて仕事ができるようになりました。図面で読み解くと難解な建築情報が、BIM を使うことにより広く簡単に伝えられるようになったということだと思います。結果的に、業務の効率が上がり、品質の向上にもつなげることができました。

BIM モデルという建物情報の塊の一部が図面のための情報だと考えると、図面の必要性が薄くなったのは事実かもしれません。しかし、図面でないと伝えられないことや伝えやすいこともあると思います。BIM とCAD の違いは、建築情報を伝える手段が増えたということではないでしょうか。

認定こども園 竣工写真 撮影:岡田大二郎
認定こども園 BIM モデル
認定こども園の増改修計画 BIM モデルによる全体の把握

変化

ワークフローの見直し、伝達手段の工夫等により、設計業務はBIM による効率化ができたと思います。実際、図面は全てBIMモデルから自動抽出される図面となり、特に建具表、展開図、確認申請図および法規Check 等は全てコンピュータ―の処理に任せています。しかし、それは従来業務の範囲内での改善であり、業務が大きく変化したとは感じませんでした。

BIM を活用することで本当に大きく変わった点は、建築情報の共有を施主、施工者との関係にとどまらず、多業種の分野にわたって簡易に連携活用できるようになったことだと思います。弊所の業務の大半は、設計監理に係ることだったのですが、BIM を運用し始めてから、新たに増えた業務がいくつかあります。一例に、会計士、税理士、不動産鑑定士等からの相談依頼が増えました。既存建物をBIMモデルにトレースすることで現況の把握や評価、それに基づいた将来への事業計画の基礎データにするといったような内容です。断片的な既存図面や他の情報から計画を模索するより、その情報を整理しBIM 化することで視覚的にも数値的にも可視化することは、想像以上に活用提案の幅が広がりました。社会的に空き家対策や既存建物の増改修に関する案件は以前より増えました。今まではある程度、具体的な計画ができてからが建築士事務所の仕事だったと思いますが、もっと前段階の時期から計画に関われるチャンスが増えたと感じています。同時に、既存建物のBIM化という新たな仕事が増えました。小規模事務所は営業が不得手だと思うのですが、事業主、発注者へのアプローチの角度が増えたことは大きな変化です。

昨今では建物の発注は竣工をゴールとせず、建物の運用目的を理解し、そのための情報を長期にわたって管理することが求められるようになりました。建築をとらえる範囲が大きくなり未知の領域が増えました。設計者としてBIM を活用することは、その入り口に立つべきだという意識改革の契機になったと思います。

BIM モデルによるエキスパンションジョイント部分の詳細検討
エキスパンションジョイント部分のディテール
作成したBIM モデルをクラウドにアップし、現場で活用

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