BIM の存在を知ったのが 2013 年の 1 月ごろ。BIM って何だろうから始まりました。そして 5 年後には「えっ、まだ CAD を使っているの? 今どきはBIM が当たり前ですよ」という時代になっていると確信しました。実際にはそうはなっていませんが。また、BIM の特性を理解していくにしたがって「小規模事務所こそ、BIM 導入のメリットがある」と思うようになりました。
導入は 2013 年の 5 月です。BIM の検討を始めたのが 4 月の末だったので、迷うことなく短期間で決めたことになります。
GLOOBE に決めた理由
BIM の導入にあたって検討したのはオートデスク社の Revit と、福井コンピュータアーキテクトのGLOOBE でした。この二つを比較した結果、GLOOBEを導入することにしました。その理由は「日本の建築基準法に準拠している」点でした。
弊社の仕事の多くが住居系の建物ですが、とりわけ集合住宅の場合は容積率を可能な限り高めることが要求されます。それには日影規制等をクリアしながら、天空率を駆使することになります。そして敷地条件によっては、接道が 2 面や 3 面だけでなく入り込んでいたり。そのため、標準装備で日本の建築基準法に準拠というのが決め手となり GLOOBE にしたという次第です。
当時弊社は社員 4 人で、設計スタッフは私を含めて2 人でした。私は、CAD はずっとベクターワークスを使っていました。一方、片腕の A 君は弊社に入社以前からかなりの Jw_cad 使いです。小なりといえども建築士事務所のボスとしては、何とかボス仕様にしたかったのですが、追い込みになると A 君は使い慣れた Jw_cadに戻ってしまいます。そこで、「私もベクターワークスから GLOOBE に移行するので A 君もそうしてほしい」と迫ったのも、もう一つの理由でした。そのためにはそれぞれが使えるようにと 2 つライセンスを取得するという、小規模事務所としては大冒険をしました。
踏み外すばかりの「はじめの一歩」
導入後の 2 年はほとんど使えておりません。それは「はじめの一歩」を、2 人とも何度も踏み外していたからです。最初の小さな壁を超えることができず、結局私はベクターワークスに、A 君は Jw_cad にということの繰り返しでした。
2014 年になると、私の大学の教え子 I 君(建築系ではありません)が入社し、設計スタッフが 1 人増えたので、もう一つライセンスを追加するという大冒険の続編です。そして、2015 年の秋に、木造の中規模の集合住宅を BIM で本格的に設計することにしました。しかし途中で挫折です。以下の写真がそれです。まだまだというところですね。
その後、何度も GLOOBE に取り組むのですが、やはり最後は CAD ということの繰り返しが続きます。でも、繰り返すことで遅々とですが少しずつ上達していきます。
そして、2018 年に先輩建築家の手伝いで、木造大架構の設計を手掛けることになりました。平面が 11mの正方形の対角線上に勾配付きの逆三角形の木造トラス梁を掛けて、それに直交する対角線上にトラスを掛けるという構造です。これを GLOOBE で作成しました。操作に関しては屋根勾配のつけ方などの基本的事項から、トラス部材の組込み方や木質感の表現など何度もリモートサポートを受けながらでしたが、内部イメージの共有には大いに役立ちました。でも完成度はまだまだです。このプロジェクトも最後のまとめは 2 次元 CAD でした。
一歩一歩勉強会、そしてチーム設計のトライアル
小規模建築士事務所では、それぞれが複数の役割をこなさねばならず、なかなか上達しません。そこで、仲間を増やしてお互いに切磋琢磨すれば相互上達をするだろうと考え、福井コンピュータアーキテクトの協力を得て、2019 年 7 月 30 日に杉並支部の有志による第 1 回 GLOOBE 勉強会を始めました。名付けて「BIMコミュニティ杉並」です。当初は支部の会議室等で開催していましたが、コロナ禍で中断後の再開では福井コンピュータアーキテクトの会議室をお借りして、他の支部の仲間にも参加してもらうようにしたので「BIM コミュニティ」としました。以下の写真がこの勉強会を始めたころです。皆さん結構真剣になっています。
その過程で、杉並支部で 3 社・他支部で 1 社がGLOOBE を新規導入しました。また、杉並支部では 2022 年 6 月に 3 社によるチーム設計の取り組みを試みました。これは、初めてということや各社の習熟度の差異などもあり、必ずしもうまくいった訳ではありませんが、課題も見えてきたのでトライした価値はあったかと思います。
現在は、民間の総合病院の 1 施設を、耐震改修や用途変更も含めた大改修をするというプロジェクトに、用途別の建築設計分担、構造設計、設備設計の部門を杉並支部の 5 社でチーム設計に再度取り組もうとしています。そして、小規模建築士事務所の複合体としてBIM データを共有しながら、将来的には長期修繕計画も含めた LCC のコンサル業務や、地域の建物に地域の建築士事務所が継続的に関与していく仕組みにしていこうと夢想しているところです。
「今度こそ」の次に「今度こそ!」
【四半世紀以上前から予測されていた人口減少】【家族像・世帯像の変容】【IT 技術や AI の進化】によって、建築設計分野に対するニーズが変わる。そして近年の【コロナ禍】。
こうした事象によって、社会の仕組みや産業が今までの延長線上で存続できる保証がなくなった、というのが今私の感じていることです。そうした中で、小規模建築士事務所がどのように生き残っていくか。これは私にとって最重要課題の一つです。それには、建築を再定義し、新たなマーケットを開拓していくことが必要ではないかと考えました。
社会が安定期の時には前例踏襲型の取り組みが安全です。しかし、予測もつかないし不安定要素がある現在においては、多少のリスクがあっても未体験ゾーンにも取り組んでみようと私と A 君は判断しました。
そのために、設計スタッフ分の BIM ライセンスを取得するという、小規模建築士事務所としての大冒険をしましたが、さらに建築の経験はゼロの設計スタッフを 2 名(40代男性 O 君と T 君)入社させるという大冒険 Ver.2 です。経験がゼロでも、彼らが PC システムや特性などにはめっぽう強いという特徴を持っているのは、今どきの世代だからでしょうか。
また、建築における設備分野の予算面などの役割が大きくなってきたこともあり、弊社では設備 BIM である NYK システムズ社の Rebro を導入しました。幸いにも、戸建て住宅や規模が大きくない低層集合住宅の案件があるので、実施設計や確認申請もGLOOBE や Rebro でやりきることを目指しています。そして O 君と T 君には BIM ネイティブとして、「今度こそ」を「今度こそ!」として BIM を使いこなし、建築の再定義を通した新しい概念の「ケンチク」を切り開いていってほしいと願うところです。
私が思っている「BIM」のメリット
これについては、今さら私が述べる必要はないかと思います。BIMは GLOOBEしか使ったことがないので、その限りでは【ある程度プランニングが進んだところで一通りの図面を作成しておけば、プランが変わっても「図面再作成」で一挙に図面を修正することができるので、プランニングにより多くの時間を割くことができる】といったところでしょうか。「BIM って高いんでしょ」「小規模事務所で BIM なんて」という言葉をよく耳にします。でも、そうは言っていられない時がすぐ目の前に来ていることを正面から受け止めましょう。
プロフィール
山田 淸(やまだ・きよし)
1949 年長崎県生まれ。丹下健三の「東京計画 1960」の模型写真で衝撃を受けた 10 歳の少年が、そのまま進路に迷うことなくまっしぐらに進んできたつもりでした。しかし最初から角度が少し違っていたようで、そのおかげで違う景色を見ることができたようです。少し変わった会社名は、その表れかもしれません。