導入事例データのつながり・人のつながりのハブとなるBIM

2022.12.01

田原 泰浩

(株)田原泰浩建築設計事務所(広島会)

BIM を導入した経緯と導入初期

独立開業した当時(2008 年)は、一般的な 2DCADを使用していました。開業後 1 ~ 2 年が過ぎた頃、プレゼンテーション力を高める必要があると感じ、他のアプリケーションを模索することにしました。効果が最も高いプレゼンテーションは CG パースであると思い、図面とパースが連動する BIM が良いと考えました。(当時はまだ BIM =ビルディング・インフォメーション・モデリングという概念は自分の中にはありませんでした)

事務所の PC 環境が Mac であったこと、自由な形状が作りやすそうであったことから Archicad を採用することを決め、Archicad14 を導入しました。周りでBIM を導入している事務所は皆無で、操作方法や図面の作り方などを聞く相手もおらず、電話サポートに一日に何度も電話をかける日々でした。その当時の BIMの運用といえば、まずモデリングを行いそしてパースにする。できたモデルを平面で切断すれば平面図、縦方向に切断すれば断面図、離れたところから並行投影すれば立面図という風に、モデリング中心でした。自分ではこの状況を BIM ではなく BM(ビルディング・モデリング)であったと今では回顧しています。つまり、I(インフォメーション)を使いこなせてはいない状況でした。

現在の BIM 利用状況

現在の弊社における BIM 利用状況としては、自社物件に関しては 100% BIM を利用しています。基本的な業務の流れとして、まずはモデリング、そして図面化とパース作成という流れです。図面化するにあたり、以前は仕上表などを作成する場合には外部ソフト(Excel 等)で作成したり、オリジナル建具を作った場合にはデフォルトの建具表に姿図が出せないため、別途 2DCAD で作図したりしていました。現在は全てBIM 内の情報を BIM ソフト内で処理することにより仕上表も建具表も一つのデータを基に作成できるようになり、修正による直し忘れや図面間齟齬が驚くほど減りました。

またパースに関しては、Twinmotion というリアルタイムレンダリングソフトを使用することで、BIMデータを直接読み込みフォトリアリスティックなパースをリアルタイムに確認しながら作成できるようになりました。

(左)Archicad のモデリング 
(右)Archicad と TwinmotionをデータリンクでつなげTwinmotion 内に Archicad の 3D データを読み込んだ状態

協力事務所との連携においては、構造設計者が使っている構造解析ソフトから ST-Bridge という形式でデータをもらうことで、構造設計者が作った構造モデルを自分たちの BIM モデル内に読み込み、重ね合わせることができます。そうすることで、自分たちの意匠モデルと構造部材との干渉を視覚的にチェックすることができます。3D であることによる視覚からの情報は、2D とは比較になりません。

意匠モデルに、構造のST-Bridge データと設備の BIM ソフト Rebro のデータを統合。各部分の納まりや干渉チェックがグラフィカルに行える

BIM を導入したことによる変化

BIM 導入後の変化としては、プレゼンテーションまでの時間が圧倒的に早くなったことです。以前はスケッチから図面を描き、3D ソフトでモデリングしレンダリングを行っていました。各作業で使うアプリケーションがそれぞれ独立しているため、一度修正が必要になると各々のアプリケーション別に修正しなければなりませんでした。その点 BIM は、図面とモデルが連動していますので、図面ができあがるとモデルもできあがります。最近はレンダリングソフトもBIMのデータを引き継ぐことが可能になったので(Archicad → Live Connection → Twinmotion)修正を恐れる必要がありません。さらに Twinmotion はリアルタイムレンダリングなので、以前のようにレンダリングに何時間もかかることがありません。静止画であれば数秒から数分でレンダリングが完了します。クライアントとの打ち合わせに Twinmotion などのレンダラーを使えば、その場で仕上げのイメージを幾つも試すことができるため、意思決定のスピードが圧倒的に速くなりました。

さらに Meta Quest2 などの VR ヘッドセットを使用することで、仮想現実空間の中で建築を見てもらうことが可能となり、図面やパースからは伝わらない空間がもつ魅力をも伝えることができるようになりました。

(左)Twinmotion でのレンダリング。以前であればレンダリングに数時間かかっていたが、ゲームエンジンを搭載したレンダラーの登場により、数秒から数分でレンダリングが可能になった
(右)Meta Quest2 にて VR 空間で建築の姿を確認。立体を確認する方法として従来の模型、パースに続き仮想現実で確認できる。実際に建物の中に入り込むことで、パースでも気付きにくい「奥行き」が検証できる。クライアントにも、よりリアルに建物をプレゼンテーションできる

BIM データの活用

BIM を利用するということは、3D で建物を認識するということです。図面だけだと高さ方向に関することは想像しなければいけません。事前に建物の姿かたちがはっきりとわかるという点が BIM の最大のメリットであると思います。また、BIM は情報を入れておくための「箱」でもあります。例えば住設機器のメーカー、品番、設置年月日など、壁にはクロスのメーカーや品番などあらゆるものを入れておくことが可能です。設計完了後も施工記録などを入れ込んでおくことも可能です。建物の定期報告記録を追加したり、修繕記録を入れていくことも考えられます。つまりデータを育てていくことが可能になり、現実の建物とのデジタルツインを作り上げることで、建物の維持管理(FM =ファシリティマネジメント)が可能となります。

BIM がつなぐコミュニティ

BIM 導入をきっかけに、新たなコミュニティが生まれました。私が Graphisoft 社の Archicad のカタログに載り、(株)杉田三郎建築設計事務所の杉田宗氏と知り合うことができました。現在、広島の地で杉田氏を中心に同事務所の長谷川氏、そして私の 3 人で「ヒロシマ BIM ゼミ」を開催するようになりました。

ヒロシマ BIM ゼミとは「広島を BIM の街に!」というキャッチフレーズのもとに、2 カ月に 1 度の頻度で開催している勉強会です。通常は杉田事務所で、コロナ以降はオンラインで BIM を中心に建築におけるデジタル技術の情報共有を行いながら、横のつながりを作っています。

そのヒロシマ BIM ゼミでは昨年、国土交通省のBIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業に採択されました。「ヒロシマ BIM プロジェクト」と銘打ち次の 3 つの課題を設定し、分析と課題解決のための対応策を検証しました。

《課題 1》 異なるプラットフォームを繋げた協働
《課題 2》 BIM を活用した維持管理コストの算出
《課題 3》 地域に根差した BIM コミュニティづくり

詳しくは、国土交通省 HP の「令和 3 年度 BIM モデル事業 検証結果報告書」<中小事業者 BIM 試行型>に掲載されていますので、ご興味のある方はご一読いただけると幸いです。

また、私が使っている Archicad はユーザーコミュニティ活動が活発で、私自身も広島の Archicad ユーザーグループである ACD48 に所属しながら、月に1度勉強会を開いています。コロナ禍のためオンサイトでの開催は難しくなりましたが、Zoom などのオンラインミーティングツールを使うことにより、各地にそれぞれ存在していたユーザーグループがつながるようになりました。それまでは各地方単体で行っていた勉強会が、今ではオンラインにより距離を超えグループ同士のコラボレーションを誘発しています。おかげで各エリアの BIM ユーザー同士の情報が共有しやすくなりました。これから BIM を導入しようと考えられている方は、そのようなコミュニティに積極的に参加して情報を取得することが運用を進める近道だと思います。

(左)ヒロシマ BIM プロジェクトメンバー
(右)Graphisoft 社主催のロードショー後に開催した広島の Archicadユーザーグループ ACD48の勉強会の様子

BIM に対する誤解

BIM をまだ導入していない方、導入しているけど運用が進んでいない方と話をしていると、さまざまな誤解があると感じます。特に 2DCAD でやっていることが BIM ではできない、という声をよく聞きます。CAD は「線を描く」ためのツールであり、BIM は「建築モデル情報を扱う」ためのツールです。BIM を図面を描くためだけのツールと考えると、使えないソフトと思ってしまいがちです。それぞれの事務所で仕上表や建具表、図面表現などの書式があると思いますが、いったんそれらを置いておいて図面表現にこだわらず運用してみると、BIM がもたらすさまざまな利便性を享受できるようになりますし、普段の業務が確実に楽しくなります。もし導入を躊躇していらっしゃる方は是非新しい扉を開いてみましょう!

Archicad の編集画面。モデル内のオブジェクトにプロパティを設定することにより、情報を自由に加えることができるところが BIM の醍醐味
新しい図面表現。BIM はもともと 3Dデータをもっているので、断面図と奥行き方向の画像を重ね合わせると立体的な図面になる。3D 部分も全て連動しているため、修正があっても奥行き部分の図が連動して変化する

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プロフィール

田原 泰浩(たはら・やすひろ)

広島工業大学土木工学科建築工学コース卒業後、(株)車田建築設計事務所、一級建築士事務所 9 月の風、(株)若本建築事務所勤務を経て、2008 年田原泰浩建築設計事務所設立。2020 年に法人化。2016 年に岡山県立大学(コンピューターデザイン)、2017 年から広島工業大学(BIM 実習)で非常勤講師を務める。2010 年からBIM(Archicad) を導入し設計に活用。Archicad ユーザーグループACD48 で勉強会の幹事を務めながら、ヒロシマ BIM プロジェクトにも参画。