導入事例BIM にチャレンジしよう!

2023.02.01

加藤 彰

(株)カトー建築設計事務所(青森会)

弊社は昨年 BIM を導入したばかりで、まだ社内でBIM が浸透している状況ではありませんが、BIM 導入時の体験談を書いてほしいとの依頼を受け、畏れ多くも恥を忍んで執筆することにいたしました。

BIM を導入した経緯

2020 年コロナ禍のなか、文化ホール改修工事の工事監理を行っていました。工事が進んでいくにつれ、ホールの鉄骨トラスと空調ダクト、電気配管の納まりの不具合が至る所で発生し、設計者、施工者ともに頭を抱えていました。その際、威力を発揮したのが施工会社で行った 3D 測量です。3D 測量で現される鉄骨トラスと空調ダクト、電気配管の位置関係が手に取るようにわかり、変更設計をスムーズに進めることができました。当初の改修設計に BIM が導入されていれば、工事が一時ストップすることもなかったと思います。今後の設計や施工図において、3DCAD による検討が必要になることをこの時強く感じました。

文化ホールの工事監理が一段落したこともあり、今後の建築設計事務所の運営方法や若手スタッフへの継承のことなどを考えているうちに、BIM を活用した設計へと変えていかなければならないとの思いが強くなっていきました。もともと弊社には、コンピュータ会社の勧めで導入したソフトが 3 つもあり、ソフトの統合の必要性も感じていたため、BIM 導入を決定し、3 つあったソフトを BIM に 1 本化することにしました。

ソフトは、普及している Archicad か Revit にしようかと考えましたが、以前に福井コンピュータアーキテクト(株)の 3DCAD ソフト ARCHITREND 21 に挑戦したことがあり、コンピュータ会社からの勧めもあって、2021 年に福井コンピュータアーキテクトのGLOOBE を導入しました。

CAD から BIM への移行に伴う苦労と GLOOBE の特徴

小さな建築士事務所が、使用するソフトを変えるということは大変なことです。仕事をしばらく止めてソフトと格闘しなければなりません。事務所のスタッフは誰一人、進んで取り組もうとはしませんでした。ちょうどその頃、こども園の基本設計を行っていましたので、率先垂範、老骨に鞭打って GLOOBE との格闘に挑みました。

最初はデータ入力の多さに戸惑ってしまいました。3 次元 CAD のイメージが強すぎたためか、BIM が形状情報と仕様情報から成り立つもので、その情報の整理とデータ作成のルールを作ることの重要性に目が向きませんでした。また、最初からそのようなことを決めることもできないため、入力データ量を最小限に留めて基本プランの作成に挑みました。

最初は簡単なプランから取り組めばよかったのですが、いきなり複雑な楕円形の形状に取り組むこととなり、大変苦労しました。最後は、若手スタッフを巻き込んでの格闘となり、他の仕事をさせないで BIM での基本プラン作りに専念させました。数カ月後、中核となるスタッフができた段階で、福井コンピュータアーキテクトに依頼し、リモートによる質疑応答形式の講習会を 2 度開催しました。

GLOOBE の社内での講習会の様子

その後、弊社の構造スタッフも参加して、Super Build® / SS7 ※ 1から ST-Bridge・SIRCAD ※ 2 を使っての変換も行い、基本プラン・プレゼン用パース・概算数量までは何とか作成できるようになりました。また、敷地が開発許可の必要な高低差のある農地であったため、弊社測量部の作成した敷地測量図の SIMA ファイルを GLOOBE で読み込み、外観パースに反映させることもできました。

Super Build® / SS7 のデータをSIRCAD・ST-Bridge を使って読み込みます

しかし、精度の高い実施図面作成に関しては、データ作成の社内ルール作りや、形状情報と仕様情報の整理の仕方を決めるなど、多くの課題が残っています。また、GLOOBE は建築基準法に沿った法規チェックへの対応が非常に良く、日本 ERI(株)の「確認検査の申請書作成ツール」とも連携しています。今回の物件では設計工程の時間切れで、申請ツールまで使うことができませんでしたが、次の物件では実施設計も含めて、全て BIM で対応したいと思っています。

(左)敷地測量図の SIMA データ、景観写真データを読み込んだ鳥観図
(右)景観写真を取り入れたリアルなパースを作成できます

※1 Super Build® / SS7・・・一貫構造計算ソフトウェア
※2 SIRCAD(サーキャド)・・・3 次元構造モデルを短時間で作成することのできるシステム。ST-Bridge ファイル [(一社)buildingSMART Japan] のインポート/エクスポート機能を標準搭載しており、各社の一貫構造計算データのインポート機能、エクスポート機能も備えているため、一貫構造計算データをインポートすることにより、構造計算書と図面の整合性をとることができる

BIM 導入にあたってのハード面の環境整備

基本プランが固まっていくと、一つの図面に対して複数のスタッフで加筆・訂正を行うための、図面を共有するサーバーが必要となりました。データ管理用として NAS(Network Attached Storage)を現在使用していますが、新たに BIM データ管理用の専用サーバーが必要となり、クラウドで対応することも考えましたが、機密管理や、使用頻度に対する料金等のことを考慮して、専用のサーバーを設置することにしました。また、プレゼン用としてウォークスルーのリアルウォーカーとコントローラー、持ち出しができる容量の大きいノートパソコンも導入しました。

BIM データ管理の専用サーバーと UPS が必要です

BIM を導入したことによる変化

まだまだ弊社には BIM が浸透していませんが、プレゼン資料の作成では、かなりの時間短縮になっていると感じています。基本プラン作成時のケーススタディもいろいろなパターンに対応できるようになり、容易に可視化することもできます。概算数量も自動計算されるので、苦手な概算工事費の算出にも力を発揮しています。

平面計画のアクソメ図も簡単に表現できます
(上)ガラス越しの外部・内部の様子。BIM を活用することで、様々なパターンに対応することが可能となりました
(左下)トップライトからの採光の様子を表現できます(右下)鏡への映り込みまで表現できます

プレゼンや打ち合わせにおいてはクライアントの理解度が深まり、問題点の早期発見・早期解決につながっています。特に、リアルウォーカーを使ったプレゼンではドアの開閉音まで表現することができ、クライアントを楽しませるとともに、満足度も高めることができます。

リアルウォーカーとコントローラーを使ったプレゼンの様子

BIM を活用した今後の課題

今後の課題は、BIM に対する協力事務所との連携です。構造設計は社内で行っていますが、設備設計は協力事務所に依頼しなければなりません。地方での設備設計事務所は一人二人の少人数事務所が多く、これらの事務所に BIM を浸透させるのに、どれだけの時間がかかるかということです。もう一つの課題は、社内における BIM の入力ルールと社内マニュアルの整備です。何か基本的な凡例でもあればと思うのですが、「設計 BIM ワークフローガイドライン」※3に沿って作成しなければと思っています。

BIM 化の波は、設計界に CAD が普及した時よりも数十倍の速さでやってくると思います。ますます複雑化していく建築設計や施工への対応、建築物の維持管理や長期保全計画等のライフサイクルコストへの対応は、社会が求める必須の課題です。これらの課題に応えられるツールとして、BIM は進化しながら大きな力を発揮していくと考えます。この変革の時代に、老骨に鞭を打ち、スタッフを叱咤しながら BIM にチャレンジしていきたいと思います。

※3 設計 BIM ワークフローガイドライン建築設計三会(第1版)

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プロフィール

加藤 彰(かとう・あきら)

(一社)青森県建築士事務所協会会長、(一社)日本建築士事務所協会連合会理事。 一級建築士、構造設計一級建築士、構造計算適合性判定員、認定コンストラクション・マネジャー。 青森県生まれ。東京電機大学工学部建築学科を卒業後、(株)東京建築研究所、地場の建設会社を経て、1982 年に(有)カトー建築設計事務所設立。1994 年株式会社に変更。 JIA 登録建築家、APEC Engineer、APEC Architect、EMF Engineer、(一社)日本コンストラクション・マネジメント協会東北支部幹事、青森県地方裁判所調停委員・専門委員、青森簡易裁判所司法委員、NPO 青森地域再生コモンズ監事、更生保護法人あすなろ理事。