コラムBIMは、建築と日本のあしたを拓くコミュニケーションツール

BIMとの出会い

設計の現場にいた私がBIMと出会ったのは、2010年のこと。さまざまな3Dソフトでモデルを作ってきましたが、感覚的に“使える!”と思えたのがArchicadでした。自由度が高いだけでなく、曖昧なニュアンスもうまく表現できます。設計というワークフローに合っているソフトだと感じました。

コミュニケーションツールとしてのBIMの魅力

そもそもBIMとは「Building Information Modeling」の略称で、建築の情報を持ったモデルを構築するシステムです。複数の紙の図面でやっていたことを、初めからすべて3Dで作成し、さらにそこから2Dの平面図や立面図を取出すことが可能です。形・材料・材質・強度・コストといった情報をパーツごとに盛り込み、高い精度で表現することに長けているため、お客様にイメージを伝える際にも役立ちます。デザインや構造計算、設備設計といった異なる分野の人たちが互いのデータを重ね合わせることもできます。つまりBIMは、“チームで取り組む建築”の合意形成に欠かせないコミュニケーションツールといえるでしょう。初期段階から風速や照明、日射量の変化を含むさまざまなシミュレーションを行い、設計業務のピークを前倒しすることで、後半の手戻りによる利益減少を未然に防ぐこともできます。

専門学校における、BIM教育

BIM後進国と呼ばれる日本では2009年が「BIM元年」と呼ばれていますが、2010年代に入ると、学校へ寄せられる求人にもBIM人材が挙げられるようになりました。私が非常勤講師を務める「麻生建築&デザイン専門学校」でも、2015年からBIMを授業に導入しています。現在、私が担当しているのは建築工学科の2年生ですが、デジタルネイティブの世代だけあってソフトへの順応性も高く、1年次で身につけた建築の知識をBIMで具現化して楽しんでいるようです。課題を与える側の私たちにとっても、学生たちが何を考えているか可視化されているため、指導のポイントを把握しやすいメリットもあります。


専門学校という限られた期間のなかで、より深く実践的なBIMの能力を身につけるために開設した「BIMゼミ」には、年次や学科の異なる学生たちが集い、さまざまなチャレンジをしています。そのひとつが、「マロニエBIM設計コンペティション」への参加です。課題の発表から作品提出までの期間は1週間。あえて属性の異なる学生らでチームを構成することで、BIMを通じた密なコミュニケーションが生まれています。BIMという世界で、学生と社会人が同じ土俵に立つことができるのもこのコンペの魅力。学生たちは壁にぶつかりながらもさまざまな気づきを得て、人間的に成長していくのがわかります。明確な目標があることで能力の向上も著しく、2022年には専門学校として唯一の「優秀賞」と「奨励賞」というダブル受賞を果たしました。学生たちは「地方の専門学校でもBIMを通じて全国に駆けることができる」という自信を得たようです。

左)BIMゼミ全体ミーティングの様子 右)チーム作業の様子
BIMゼミデータ連携フロー

マロニエBIM設計コンペティション2022 
左)優秀賞「Health Memory」 右)奨励賞「あそびごころの杜」

マロニエBIM設計コンペティション2022 審査結果はこちら

私が考える、BIMの未来

建築業界全体で人手不足が叫ばれるなか、「BIMって楽しい!」と言ってくれる学生たちがいることが、業界の光だと感じます。建物自体がさまざまな情報を持ち、その割合が増えれば、都市の暮らしは変わるでしょう。ビル風や日射量といった日常の情報だけでなく、防災・減災ハザードマップなどの非常時に役立つ情報も生かされることで、新たな未来も広がりそうです。そんな予感も含め、世界共通のBIMが日本でも“あたりまえ”になるように、学生や全国各地の仲間たちと取り組みを続けていきたいと思います。

執筆者:道脇 力(みちわき・ちから)
1975年生まれ。設計事務所、ゼネコン設計部勤務を経て、2005年「道脇設計室」を開設。2010年よりBIMに触れ、現在はグラフィソフト認定コンサルタントとして活動。
2022年「(株)KOVALENS」を設立し、代表取締役を兼務する。