導入事例BIM活用に必要だった意識改革

2022.06.01

正木 孝英

マサキ1 級建築士事務所(香川会)

BIM 導入までの経緯

1992 年の開業当初から2DCAD を導入していましたが、ある頃から3DCAD をはじめ、さまざまなソフトウェアに興味を持ち始めました。実際、その当時から業務の傍らさまざまなCAD ベンダーのWeb サイトを調べ、新製品の試用なども積極的に行っていました。中でも特に注目していたのが3DCAD だったのです。

そもそも建物が立体物なのに、それを2 次元の図面で描いて他人に伝えようなんて難しい……実はずっとそう思っていました。だから模型を作りアイソメを描いて、プレゼンテーションや打ち合わせを行っていたわけですが、それだけではどうしても伝えきれないことも多かったのです。

結局は伝えきれぬまま、現場合わせが必要になってしまうわけです。3DCAD ならそんなこともなくなるのではないか、と期待しました。3 次元化を図り効率化を進めようと考え、ある3DCAD 製品の導入を決めました。ですが、結果的にこの挑戦は失敗でした。当時まだツールとして未成熟だった建築系3DCAD は製品の機能も不十分で、自分が望む使い方ができなかったのです。

恐らく、当時の私のCAD スキルも不足していたのでしょう。やりたいことが全くやれず、3DCAD の導入を挫折してしまいました。その後、当時登場したばかりだったフリーウェアの2DCAD、Jw-cad を導入することにしました。そこからしばらくはJw-cad 主体に業務を続けました。もちろん3 次元設計はずっと気になっていましたが、やはり最初の失敗が響いて、なかなか踏み切れずにいたのです。それでも、設計業務の傍ら3D ソフト探しを続けていました。2014 年頃にはBIM という新しいトレンドにも触れ、海外製BIM ソフトや2.5 次元CAD に触れるなど、さまざまなBIM ソフトを試す日々が続きました。ところが、どのBIM ソフトを使ってみても、なんだかしっくりこないのです。これは違う、あれも違う……という試行錯誤の日々が続きました。そして、その果てにようやく出会えたのが、GLOOBE でした。

国産BIM ソフトという最大の強み

GLOOBE を選んだ最大のポイントは、やはりこれが唯一の国産BIM ソフトだったということです。特にこのBIM ソフトが日本の建築基準法に適応している点が非常に大きかったです。そして、さらにもう一点重視したのは、GLOOBE の持っていたJw-cad との親和性の高さです。GLOOBE で作成した設計データは、コンバータを使わずJw データに書き出せるし、取り込めるのです。長年蓄積してきたJw データの設計資産を従来と変わらずにスムーズに活用できる点は、極めて重要でした。

マンションリノベーション。BIM を活用することにより、建築主への提案資料をスピーディに作成できます

ところが、予想外だったのは、導入したGLOOBE を本格稼働させるまで想像以上の時間がかかった点でした。実際、BIM を本格的に活用してその効果を十分発揮させるまでには、3 年ほどかかりました。と言っても、GLOOBE に問題があったわけではありません。一番の原因は、私自身のBIM に対する誤解というかBIM と2D 設計に関する大きな勘違いがあったのです。

BIM 導入時の認識

意匠設計を主業とする建築設計者は「2D 図面作成こそ自分の仕事だ」と認識している場合が多いのではないでしょうか。少なくともBIM 導入時の私はこのような認識を持ち、GLOOBE 導入後もそれは変わりませんでした。だからGLOOBE を使い始めても、意識は常に“ これでいかに効率的に2D 図面を仕上げるか” という方向に向いていました。むろんBIM で仕事を進める以上、作業は3D モデルの制作から始まるわけですが、この時点で既に私の意識は3D モデルではなく2D 図面に向かっていたのです。だから3D モデルは100%でなくて良いと思っていました。例えば70%程度でも、とにかく形にしてしまえば後はそこから断面を切り出して2D で加筆修正し、2D 図面の成果品として仕上げることで仕事は完了すると。ところがそれは全くの間違いだったのです。そのことに気付いたのは、ある大型プロジェクトでの経験でした。

(左)飲食店インテリア、(右)学生マンション計画案
木造住宅。BIM モデルを活用することで、建築主との意志疎通がスムーズに行えます
食品加工工場

BIM は図面を描くツールではない

このプロジェクトを手掛けるにあたりGLOOBE 導入を決断し、GLOOBE で3D モデルを作成し2D 図面の切り出しをしようと考えました。GLOOBE で作ったモデルから切り出した断面データをJw-cad に渡し、それぞれ加筆修正して仕上げる……という段取りです。ところが、実際に始めてみると、これがどうも上手く回りませんでした。ひと通り仕上がった2D 図面を見せながら発注者と打ち合わせをしたところ、当然、幾つもの修正点や変更点が生まれる。そこでこの修正点・変更点をダイレクトに3D モデルに反映させて修正してしまうと、その時点で2D 図面データとの間に不整合が生じてしまう。そのため、修正済みの3Dデータから再度断面を切り出すにあたって、当初と同じ加筆修正を再度行う必要が生じたのです。

結局、私はBIM による進行を打ち切って3D モデルも廃棄し、最終成果品は2DCAD で作成するということになりました。このような状況が発生した原因は、BIM への理解が不十分だった結果、BIM を正しく使い切れていなかったのです。

つまり、BIM は2D 図面を作るためのツールではない、ということだったのです。BIM を正しく効果的に運用したいなら、とにかくまず3D モデルをしっかり作り込まなければならなかったのです。GLOOBE によるBIM 設計が軌道に乗るまで約3 年かかりました。つまり、その3 年間はBIM と2 次元設計の根本的な違いに気付き、設計スタイルを改めるために必要だった時間にほかなりません。

長年続けてきた2D 図面作成主体の設計から、BIM によるモデル制作中心の設計への転換は一大イノベーションであり、簡単なことではありませんでした。そして、この取り組みを支援してくれたのが福井コンピュータアーキテクト(株)(以下FCA)でした。実は最初に「BIM に対する考え方が違っていますよ」と指摘してくれたのもFCA の方でした。3 次元関連のイベントに誘われ、これに同行してから交流が深まり、BIM に関して色々と教わるうちに軌道修正できました。こうして回り道しながらも、現在は完全にBIM 設計への切り替えを実現しました。

現在のBIM の利用状況

開業当初は施工図の作成をメインに業務を行っていましたが、お客様からの声に応えて、意匠設計へと業務を拡大しました。現在は、個人住宅から商業施設、倉庫、工場施設、マンションの大規模修繕など、ジャンルを問わずさまざまな建築物を手掛けていますが、個人住宅も含めて全てBIM で作業を行っています。プラン作りからGLOOBE で着手し、もちろんプレゼンや打ち合わせもBIM モデルで行います。変更・修正をして作り込んだモデルから図面を書き出し、仕上げるのも全てGLOOBE で行っています。そのため今ではJw-cad を使う機会が激減してしまい、使い方も忘れかけているほどです。一番メリットを感じるのは、まずプレゼンに関わること、そして各図面間の整合性が取れている点です。前述の通り、プレゼンや打ち合わせはPC でBIM モデルを見せながら行っています。お客様とやりとりしながら、その場で修正するなどしていますが、以前の“ 図面とパース” で説明していた頃とは建築主の反応が全く違います。実は2D図面を見せてもそこから立体をイメージできない建築主が多いのですが、BIM を使うことにより早い段階から完成形をリアルにイメージしてもらえるようになりました。そのため手戻りが大きく減り、互いの意思疎通もスムーズにできるようになりました。

以前は、建物ができ上がって初めて「ああ、こんな風になるんだ!」と言われたものですが、今は設計段階できちんとイメージできます。“ こんなはずじゃなかった” と言う建築主はいなくなったのではないかと思います。そのためプランに対する建築主の注文も増加傾向にあり、その対応はなかなか大変ですが、だからこそ、完成した建物への建築主の満足感は、以前とは比べものにならないほど大きいです。

また、各図面間の整合性という点においては、2DCADではプラン変更があった際に、関連する図面をそれぞれ修正する必要があったため、修正漏れなどのミスが起こりやすく、図面間で不整合が生じる原因となっていましたが、BIM の場合は、まずBIM モデルを修正し、同じBIM モデルから各図面を切り出すため、図面間の整合性が担保できます。BIM を活用することにより、修正作業にかかる時間が短縮でき、さらに各図面間の整合確認に費やしていた時間も削減できるため、効率よく業務を進めることができるようになりました。

事業プランを拡大するBIM

BIM を使用した既存建物の長期修繕計画といった案件への対応も、早く実現させたいと思っています。長期修繕への対応もそうですが、GLOOBE を使うことにより、どんどん仕事のフィールドが広がっていることを日々実感しています。実際、木造だろうと鉄骨、RC だろうとBIM で対応できるし、もちろん住宅でも非住宅でも、公共工事でもリニューアル工事でも、全てに使えることが分かりました。今後も事業フィールドをBIMで広げていきます。

社内打ち合わせの様子

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