導入事例建築DXの核となるBIMデータを使いこなし、 社会革新に不可欠な技術者を目指して

2022.03.31

吉田 浩司

(株)ixrea(鹿児島会)

BIMを導入した経緯

2013 年の創業時にBIM を導入しようと考え、4 社ベンダーを比較検討した上でArchicad を採用することにしました。決め手は「直感的に使える!」ということでした。PC 内で模型をつくっていくような操作感は、Archicad が1 番だと思います。

その当時でもBIM という言葉は聞かれていましたが、まだ周囲に導入している建築士事務所はほとんどありませんでした。鹿児島のような地方ではセミナーもないため、ほぼネットからの情報を頼りに導入したのを覚えています。

今のArchicad はver25 となり、最初に導入したver16とは比較にならないくらい使いやすく便利になりました。毎年アップデートされますが、進化のスピードについていくのも大変です。

また、BIM ソフトだけでなく、連携できるさまざまなハード&ソフトの進化にも驚いています。今ではメジャーな構造設計、設備設計ソフトとのST-Bridge 連携(※ 1)、IFC 連携(※ 2)も簡単にできるようになりましたし、それを簡単に実現するためのCloud 環境も提供されています。

さらに最近ではiPhone12Pro やiPadPro にLiDAR が搭載され、今までは数百万円する機器を使い、1 日かけて撮影するという大変な作業が必要だった点群データ(※ 3) の取得が、簡単にスマートフォンでできるようになりました。この点群データは、BIM データに取り込んで設計モデルと重ね合わせることができます。また、Archicad の中でクルクル回して見ることもできますし、寸法を測ることもできます。新築の場合は周辺敷地のデータを取り込み、設計建物と周辺環境の関係性をチェックします。改装の場合は、既存建物のデータを取り込んで、既存の状態と計画の内容を照らし合わせながら検討できます。VR やAR といった技術との親和性も高く、CAD ではできないことがどんどんできるようになっています。

弊社がBIM を導入してから9 年が経ちますが、あの時導入していなければ、今がどれほど大変だっただろうと思うばかりです。

※ 1 ST-Bridge(エスティーブリッジ)
日本国内の建築構造分野での情報交換のための標準フォーマット。国際フォーマットのIFCとは違い、主に日本の一貫構造計算ソフトのBIM 連携を行いやすくするために開発された

※ 2 IFC
BIM のデータを流通させるための中間ファイル形式。2 次元CAD でいうJw_cad とAutoCAD の互換性を実現するDXF ファイルのようなもの。オープンなBIM データ連携の手段として、世界各地で活用が増加している

※ 3 点群データ
XYZ の座標情報を持つ点の集合体。これにより3Dの表現が可能になる

iPad で撮影するだけで手軽に点群データを取得できます
上手く撮影すれば、かなり精度の高いデータになります
内部も一通り取得してBIM に取り込めば、改装設計も簡単です

社内におけるBIM研修の方法

2020 年のコロナ禍以降、さまざまなセミナーがオンライン化されました。これは、学びたくても機会が少なく、コストがかかっていた地方在住者にとっては、かなりの追い風となりました。弊社は在宅ワークも推進しており、いつでもどこでも仕事ができる環境を整えていますが、教育も同じようにいつでもどこでも学べることが大事だと考えています。

Archicad そのものの使い方はテキストも販売されていますし、オンラインでいくらでも講座を視聴することができます。社内教育もそれに合わせて、社内テンプレートのルール周知や、入力方法の統一化を図るための解説動画を作成し、YouTube でいつでも視聴できるようにしています。こうすることで、隣に分かる人がいなくても、いちいち先輩の説明のメモを取らなくても、必要な時に必要なだけ見ることができますから、管理する側も楽ですし、スタッフの技術習得も早いと感じています。

ただ、技術の進化は日進月歩ですので、日々最新情報の取得、勉強は続けなければなりません。これは自分にも、スタッフにも、常に言い続けています。

(左)PC 上で3D モデルを見せながら打ち合わせを行います
(右)初期提案でこの程度のパース&動画を提出できます
(左)REAL4 のデータと Tfas のデータを IFC で取り込みます
(右)BIM 上で合成し、干渉チェック、取り合い確認を簡単にできます

BIMを導入したことによる変化

建築主との打ち合わせは全て3D モデルを見ながら行います。打ち合わせの中で変更などの要望があれば、その場でモデルを修正して、確認していただきます。このスピード感とわかりやすさに、建築主には毎回驚きと感心の言葉をいただいています。

設計者側としても、イメージを正確に具現化でき、さまざまなシミュレーションでチェックができるため、設計品質の向上にも繋がっています。例えば鉄骨との取り合い、設備配管のルートなど、図面だけではなかなかわかりづらい部分もBIM なら一目見て理解することができます。干渉チェックを自動で行うソフトもあり、設計品質を上げつつ、設計者の負担を減らすことが可能になっています。

(左)社内打ち合わせもオンラインで行うことがほとんどです
(右)各社担当が集まって3D を見ながら打ち合わせ

動画の圧倒的な情報量

デザインプレゼンといえば、迫力のある模型と、パネル化した図面やパースを用いて身振り手振りで伝える、というイメージでしょうか。ただ、建築主側からすると見慣れない図面、いまいち完成がイメージできない模型で話をされても、「すごいですね……」という言葉しか出ない場合が多い気がします。

BIM で設計を進めていれば、必然的に3D のモデルデータを作成することになりますので、パースだけでなく、動画を簡単に作成することができます。弊社でも基本的に最初のプレゼンで動画を作成してお見せしますが、建築主の反応は以前のものとは全く異なります。

また、より具体的なイメージを出すことで、早い段階から建築主側からの具体的な要望を得ることができます。これが業務のフロントローディングに繋がり、実施設計や施工段階での手間のかかる変更を減らすことができます。

こちらからさまざまな動画を見られます
https://youtube.com/channel/UC5vHSN6MJ0-VJ2kbg_R_nOw

他業者とのデジタル連携、BIMcloudの活用

一つのプロジェクトを複数の設計者で担当するケースが多いので、Archicad のBIMcloud というサービスを利用しています。これは、サーバー上にBIM データを置いて、それを同時に複数人でアクセスして作業するシステムです。今進めているプロジェクトでは、設計者、施工者、設備業者、構造設計者、サッシ・金物等の専門業者がログインし、データを共有しています。設計段階で、仮設計画や設備配管の取り合いなど、それぞれの担当が相互に入力し、効率的な設計や施工段階での問題の洗い出しなどにも活用しています。直接各担当がサーバー上のデータにアクセスできるため、どれが最新の図面かを気にする必要もなく、メール等でのやりとりも必要ありません。効率的に設計を進めることができます。

また、昨年度竣工した改装の案件では、建築主が東京、設計が鹿児島、現場&施工会社が沖縄で、緊急事態宣言下でもあったため、ほとんどオンラインでの打ち合わせで現場が進みました。改装案件だと実際の建物と既存図面の齟齬が起きやすいのですが、スケルトン状態の建物躯体の点群データを施工会社が取得してBIM データに入力、意匠モデルと点群データを照らし合わせて速やかに問題点を洗い出すことができました。問題の箇所を設計者と施工者が3D モデル上で確認し、3D モデル上で建築主に説明し即承認を得られたため、スピーディーに変更対応することが可能となりました。

DXの加速

コロナ禍もあり、テレワークの推進や多様な働き方への対応などからDX が急速に進んでいると感じています。確認申請の電子化の1 番のネックだった捺印も、ようやく不要となりました。弊社でもほとんどの確認申請は電子申請になりました。国もBIM の推進に力を入れており、今後の公共工事発注でもBIM が指定されるケースが増えてきます。いままでの10 年とこれからの10 年では、変化のスピードは格段に違うものとなるのは間違いありません。

新築でのBIM 連携事例

(左)意匠+施工モデルで仮設計画を3D 上で確認
(右)意匠+設備モデルで配管との取り合いを3D 上で確認

改修での点群活用事例

(左)既存平面図を元に設計したモデル
(右)実測した点群データを重ねると既存の柱が通路にはみ出すことが判明
最終完成形:柱があることを前提とした仕様を採用

技術者として、BIM設計による建築主のメリットをしっかりと考えよう

このような業界誌でBIM の話をする場合、「自分たちにどういうメリットがあるのか」という視点で語られやすいと思います。しかし、我々が先に考えるべきは「建築主のメリット」ではないでしょうか。

見慣れない図面ではなく誰でもイメージしやすい3D モデルで打ち合わせができる。模型とは違いイメージ通りの建物ができる。そのデータを使って施工コストを適正化するとか、維持管理コストを簡単に管理することができる。このように、BIM で設計を行うことにより建築主が享受するメリットは非常に大きいものがあります。

「建築主の利益の保護を図る」ことが建築士事務所の大きな存在意義のひとつです。我々技術者は日々学び、技術研鑽に努めていきましょう!

そして、業界全体として、このような付加価値を提供できる建築士事務所の地位向上を図り、生産性改善、成果報酬増に向けて動いていくべきではないでしょうか。これからのDX には、建築士事務所の活躍が欠かせない!という状況を作っていければ、我々の職域も広がり、活躍の場が増えることは間違いないでしょう。

記事に関するご意見・ご感想はこちら

プロフィール

吉田 浩司(よしだ・こうじ)

一級建築士、一級建築施工管理技士、認定BIM マネージャー。鹿児島県出身。国立都城工業高等専門学校建築学科卒、国立大学法人鹿児島大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。大手組織事務所、地場設計事務所勤務を経て2013 年に鹿児島にて(株)ixrea を設立。設立当初よりArchicad を導入しBIM 活用を進める。18 年にBIM データによる確認申請を実施。鹿児島で設計中の案件が令和3 年度BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業に採択され、推進中。 (一社)鹿児島県建築士事務所協会、(公社)鹿児島県建築士会所属。2020 年より(公社)日本建築士会連合会青年委員会九州ブロック青年委員を担当。福岡大学建築学科非常勤講師(建築情報のBIM 授業担当)。