導入事例BIMが照らす、これからの建築設計の世界

2022.03.31

横松 邦明

(株)横松建築設計事務所(栃木会、東京会)

私たちが 2008 年に BIM(Archicad)を導入してこれまで仕事をしてきた中で感じたことなどを書かせていただきます。

BIM を導入した経緯

前職は工業製品の試作をつくる仕事でした。3DCADを用い、光造形(3Dプリンターのようなもの)で立体化させて確認、編集を繰り返して商品化を目指します。

PC の中の形(3D)→立体化させた試作品(3D)→商品化(3D) 
全ての工程は細部まで確認されながら進みます。後に現職につくのですが、工程の違いによる難しさを感じました。

空間を頭で考える(3D)→図面化する(2D)→工事する(3D)
工程の中に2D が入ることによって『頭の中のデザイン』を輪切りにして2次元の図面に変換する必要があり、これはとても難易度の高いスキルです。その後の工程も2次元の図面を理解し立体の建物をつくるため、こちらも高難度です。

同じ物をつくるという作業ですが、間に2D が入ることにより、仕事が格段に難しくなったと感じました。それ以外でも次の問題点があります。

  • 2D 図面同士は相互に連動していないため、変更時にミスが起きやすい。
  • 2D の図面だとクライアントや関係者が、設計内容を理解することが難しい。

それらを解決すること、そして、仕事の流れをシンプルにすることを目的に BIM を導入することに決めました。

使用しているBIM ソフト

GRAPHISOFT 社の Archicad を使用しています。私がBIMを導入したのは 2008 年と結構昔ですが、当時は書籍やマニュアル等もなく、ほぼ独学で習得しました。全てのコマンドを全て検証し、実際の設計作業ができるようになるまで 1 年程度、試行錯誤を繰り返しました。当時と比べて、各社のソフトはものすごく進化しています。

Archicad はモデリング、2D 図書化、パースや動画の作成やリスト機能などバランスの取れたソフトです。ソフトは定期的にバージョンアップされるため、バージョンアップ後のソフトを習得することにより、自然と技術力もアップします。また、複数の人数でモデリングができるチームワーク機能が秀逸で、社内、社外含めてのメンバーで仕事を進めることができます。

社内におけるBIM 研修の方法

入社時に3日程度の研修で、ソフトの操作方法をレクチャーします。その後は仕事をしながら覚えていくことになります。私たちの会社は基本的に全員が Archicad を使用して設計しているので、わからないことは先輩に相談すれば大概のことは解決できる環境ができています。現在は、東京、栃木、新潟にオフィスがありますが、新人教育を自動化するために教材の制作を進めています。完成すればさらに効率的にスタッフの育成が可能になると考えています。

BIM を用いて中国で設計した幼稚園

CAD とBIM の違い

私自身2DCAD を使用して仕事をした期間はそれほど長くはないのですが、簡単に言えば、

【2DCAD】図面をたくさん描く→形をつくる
【BIM】形をつくる→それらを輪切りにして図面をつくる

と反対のイメージです。BIM はプランを考えながら色々な角度からモデルを見て、見た目も動線も同時に整えます。さまざまな検討を同時に行えるため、早くて楽です。

ただ、BIM には形をつくりながらさまざまな設定(レイヤー、材質、複合構造、ID、etc…)を行う必要があり、それらを理解した上で進めていかないと見た目だけのモデルになってしまいます。習得の難易度はBIM の方が高いと思います。

BIM を活用した実際の設計事例

中国・青海省で幼稚園を設計しています。現在は躯体をつくっている状況です。ホームページに掲載していた設計事例を閲覧して、中国から問い合わせがあったことがきっかけです。幼稚園の建設に向けて提案したのは、メビウスの輪のように8 の字に建物を立体交差させるデザインです。この8 の字案の実現は2DCAD では難しく、自由度の高いBIM ならではのデザインだと思います。

クライアントとは、通訳やGoogle 翻訳に頼りながらのコミュニケーションですが、BIM の『わかりやすさ』が大活躍しています。移動が制限される中で、3D モデルを共有しながら打ち合わせを進められることにより、現地の設計事務所ともスムーズに連携が取れています。

国内では保育園やクリニックなどの比較的小規模な建築物から、工場やオフィスビルなどの中規模建築物まで、用途、規模を問わず、さまざまな建築物をBIM を活用して設計しています。

幼稚園の現在の施工状況

他業者とのBIM を介した
デジタル連携の状況について

とてもありがたいことに、オフィスのある関東以外に九州、近畿、東北や中国など、徐々に仕事のエリアが広がっています。BIM が得意なパートナー企業との連携はBIMcloud を活用し、離れたオフィス同士でも協業できる環境を用意しています。今後も協業できるパートナーを増やしていきたいと考えており、そのための共通のテンプレートやBIM 習得用の教材の整備を進めています。

BIM にはたくさんのパラメータがあるのでテンプレート化は必須

コロナ禍でのBIM ネットワークの
運用状況について

BIM とZOOM の相性はすこぶる良いです。3D モデルを共有しながらの打ち合わせは対面に近いイメージの共有が可能で、移動がない分効率も良いためデメリットが見当たりません。

ZOOM とBIM の活用イメージ

以上が、私が仕事をしてきて思ったことです。あくまで一個人のやり方ですのでこれが絶対的な正解とは言えませんが、一つだけ言えることは「BIM は楽しかった」ということです。

導入当初はソフトの使い方が難しく使いこなすまでに苦労しましたが、BIM を通してさまざまな人と知り合うことができました。また、チームワーク機能を用いることにより、同じBIM モデルを見ながらコミュニケーションが取れるため、離れていても一緒に仕事ができるようになりました。場所を選ばず仕事ができるため、仕事のエリアが広がり、多店舗化することもできました。BIM 導入をきっかけに、良い方向に会社が変わっていったと感じています。

建築設計は忙しく大変な作業が多いです。それらを楽しく進めることができるということは非常に大切です。BIMが楽しそうだと言って履歴書を送ってくれる人もたくさんいます。私は建築設計の世界をBIM が明るく照らしてくれていると思っています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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プロフィール

横松 邦明(よこまつ・くにあき)

IT 製造ベンチャー企業在職中に3DCAD を使用したデザインに興味を持ち、多数のモデリングソフトのスキルを身につける。その後、父親の経営する(株)横松建築設計事務所に入社。 従来の2D 設計に3D での設計(BIM)を黎明期(2008 年)より取り入れ、新しい設計スタイルを確立する。現在は東京、栃木を拠点とし国内外で設計活動を行う。本業以外では『日経アーキテクチュア』、『建設IT ガイド』その他の雑誌での執筆や、各地での講演活動、教育活動を展開している。