導入事例BIMがもたらす未来像

2024.12.02

橋本 賴幸

(株)こま設計堂(大阪会)

BIM を導入した経緯

2018年頃から社会の流れとして「BIMを導入しないとなぁ」と思いながらいろいろと調べたりセミナーに出席したりしながら、それでもどれがいいのか今ひとつ分からない中で、決めきれずに時間ばかりが経過していました。そんな中、2020年春、コロナ禍に入り、先が見えない社会情勢の中で、進行中のプロジェクトが止まったり保留になったりし、ちょうど福井コンピュータアーキテクト(株)の営業担当者から、IT導入補助金の案内をもらいました。そこで、ダメ元で2020年7月に申請をしたところ、8月に交付決定通知をもらい本格的に導入することになりました。IT導入補助金が無ければ導入の時期は少し遅れていたかもしれません。

なぜGLOOBEか?ということについては、IT導入補助金の案内や書類作成を福井コンピュータアーキテクトの営業担当者が手伝ってくれたから、というのも大きな要素ではありますが、「世界標準」ということよりも「日本の法規制に特化」していることが大きな決め手でした。当社の設計は事務所内で作図することが多く、他事務所とひとつのプロジェクトを手がけることが少ないということもあり、業界標準ということに大きなこだわりはありませんでした。また、日本で開発されている、ユーザー会が活発に動いている、身近に話を聞く人にGLOOBEユーザーがいる、こういった要素もGLOOBEの導入に至った理由でもあります。

また、BIMの共通ファイルについても自分なりに調べました。2DCADの共通ファイルであるDXFは使いにくく、最低限の互換性しかありません。現状の2DCADは、結局作ったアプリケーションCADのデータが前提になってしまっています。2Dならまだしも、3D(BIM)において共通ファイルがどの程度互換性があるか(損失データが少ないか)については大変興味があり、これからBIMを導入するときに避けては通れないと考えています。同じことをBIMの開発者も感じていて、DXFと同じ轍を踏まないような共通ファイルの開発をしていることを確認して、これならBIMは自分が使いやすいもの、自分が使いたいものでも良いという確信に至りました。という私も、実際に他事務所と異なるBIMでのIFC(BIM間共有ファイル)のやりとりは未経験です。

BIMの苦労

大学で製図やエスキスをまだ手書きでしていた私の世代は、社会に出た頃に2DCADが事務所内で本格導入されてきた、いわゆる2DCADネイティブ世代です。ですので、2DCADは割と思いのままに使うことができます。ただ、2DCADは、手書きしていた図面をコンピュータに置き換えたものです。CADのDはDesignのDですが、実際にはDrawingになっていることを感じます。紙に鉛筆で線を引いていたものを、コンピュータ画面にマウスで線を引くようになった程度の違いです。いわば手書きの文書からワードプロセッサを使うようになった程度の差です。

ところが、BIM(Building Information Modeling)は、建物の情報を入力して立体化するものです。つまり、コンピュータの中で仮想的に建物を建てているということです。「2DCADからBIM」は「手書きからCAD」よりもはるかにハードルが高いです。CADなら建築のことを分からなくてもなんとなく見よう見まねで作図することはできますが、BIMは最終的に入力する一つ一つに要素などの情報を与えることまで求められます。それを省く方法もあるのでしょうが、最終的に使えるBIMデータにするためには、多くの情報を持たせておく必要があります。つまり入力すべき情報が一気に増えます。CADなら石膏ボードも強化石膏ボードもケイカル板も同じ線で書けますが、BIMは材料の違いや厚みを入力する必要があります。もちろん後から変更することは可能ですし、その変更も難しくはないのですが、設計を始めたばかりの若いスタッフにはハードルになっているようです。

ある程度設計や施工の心得が無いとBIMへの入力が難しい、と感じることもあります。手書きスケッチなどをCAD化するのは少しのトレーニングでできますが、BIM化するのはまだまだハードルが高いのではないかと感じます。手書き文書をコンピュータでデジタル化するのは、入力さえできれば極端な話、日本語の意味が分からなくても可能です。しかし、こんな文書を書いておいてと抽象的な伝達では書きたい文書が作れません。まさにBIM化は今この状態にあるように思います。これは今後コンピュータ技術が進歩すれば改善するのかもしれません。ただ、今はまだ新人がそれなりに使えるようになるまでの時間は、CADよりもBIMの方が長くかかるように感じます。

延床面積・建築面積を確認
平面図から断面図を作成。1つの建物モデルから切り出して作成するため、図面相互の整合性が高い

BIM の「M」を活用したい

これはまだ構想中であり、実際にできていないのですが、敷地や既存建物を3Dスキャンして、そのデータを利用して設計することを構想しています。これまで敷地の高さをレベルで測量して敷地の高低差をイメージしながら設計していたことを、実際にBIMに高さ情報を取り込んだ状態で設計をして、その進捗を建築主と共有したいと考えています。高低差情報はプロにとっては頭の中に入っていますのでイメージはできていますが、それを建築主と共有することは非常に難しいです。手書きや2次元パースで表現するときも大きな高低差は伝わりますが、別角度から見たりする場合には手間がかかります。模型で作るとさまざまな角度からの検証ができ、建築主に伝えることも容易になりますが、コストも時間も必要です。それをBIMで解消できないかと考えています。3DスキャンとBIMの融合については当社だけではできませんので、協力事務所と研究したいと思っています。

視点の高さや視野角も自由に設定できます
視点の高さを変えたパース

BIM の「I」を活用したい

そもそもBIMの最も大きなメリットは情報です。「さまざまな要素や情報を入力することが大変だ」と前述しましたが、その苦労の先にあるのは、やはりその情報を維持管理などに生かすことだと考えます。建築や設備をいつ修繕したのか、そのときにどんな材料でどの範囲を修繕したのか、それらを記憶や経験に頼らずともデータ化できていることはこれからの時代必須になってくる、なってほしいと思っています。それはBIM を持っているプロ(建築士事務所や施工者)がいるからこそであり、そのBIMを更新していくことで建物や建築主と長く付き合うツールになる、そしてそれが安定した仕事や収入につながる、という時代が来ることをイメージしています。

設計時の検討もさまざまな角度から確認することができます
別アングルでのパース。BIMを使うと1つの建物を建築主とともに瞬時にさまざまな角度から検証できます
印刷画面

BIM 時代の到来のためには

やはり今、入力に手間がかかっている部分は、AIなどで簡易にアシストしてくれることが求められます。経験の浅い設計者がとっつきにくいところも、そういった機能があればハードルを下げることにつながります。純粋に創造に使う時間を増やすことにつながれば、BIMが目指す世界に近づくと思っています。

最後に、日事連で実施しているマロニエBIMコンペは、BIMの推進に大きく役立っていると考えます。当事務所でも取り組んでいますし、その取り組みを通して他事務所と連携をとりながらひとつの作品を作っていく、という経験になっていることは非常に有用だと感じています。

会社・社会全体で盛り上げていくことが、BIMのさらなる普及につながると考えます。

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プロフィール

橋本 賴幸(はしもと・よりたか)

1996 年、大阪市立大学工学部建築学科を卒業後、98年、同大学院修了。設計事務所に勤務しながら、2003年に学位を取得。同年一級建築士事務所こま設計堂を立ち上げる。京都美術工芸大学建築学科特任教授、畿央大学健康科学部人間環境デザイン学科非常勤講師、大阪府住まい・まちづくり教育普及協議会会長。共著に『「いい家づくり」のQ&A100』(エクスナレッジ)などがある。