導入事例ひとり設計監理の質を上げるためのBIM活用

2025.02.03

松永 務

一級建築士事務所アトリエMアーキテクツ(静岡会)

2D設計からBIMへの移行背景

2D設計が主体で、3Dは躯体架構やイメージの一部に使用するだけ。私のような設計環境の方は意外に多いのではないでしょうか?私の設計活動がスタートしたのは1981年で、私が勤めていた一色建築設計事務所東京では、手書き世代としてもっぱらイエローペーパーのスケッチと青焼き図面。しばらくしてMacintosh の MiniCAD が導入されましたが、当時はまだまだ試行錯誤の時代で直接触れるのはスタッフで、本格的な導入時には、立場的にあまり触れる機会がありませんでした。

1996年に静岡に自邸兼アトリエを建設してから3年間は静岡から新幹線通勤をしましたが、その独立準備時期に東京スタッフからCADの手ほどきを受けながら、2000年に一級建築士事務所アトリエMアーキテクツを設立した時点で、ようやく私のVectorworksでのCAD設計がスタートしました。それから18年、冒頭の2D設計が主体で、3Dは躯体やイメージの一部という設計体制でした。

アトリエMアーキテクツの作業環境

2018年に業務機のMac環境のアップグレードを機にVectorworksArchitect へバージョンアップしてから、気になっていたBIMについて、解説本『VECTORWORKS ARCHITECT で学ぶ 住宅設計のためのBIM入門』とVSS(Vectorworks Service Select)契約によるサポートセンターにお世話になりながら使っているうちに、私がやりたかった作業環境にとってのハードルがかなり低くなっていることに気がつきました。

自分の設計スタイルにあったBIM

私が、これまでの2D設計+補助的なイメージ3Dの設計スタイルでは限界がある、と考えていた点を具体的にお話しします。

それぞれのプロジェクトが多様化・複雑化する中では、どうしても頻繁に変更が出てきます。それはプロセスとして当然なのですが、その変更に対して個別に図面を描く2D設計では修正に多くの時間が費やされ、本来の設計にフォーカスする時間が削られてしまうこと。また、多くの訂正の確認が画面上で完結することが難しく、プリントアウトして確認している煩わしさ。私がBIM導入について意識したのは、まずこうした問題点の解消が目的でした。

ひとりで設計しているからBIMまで必要性を感じない、実はここに導入の目的意識の違いがあると思っています。設計仲間にBIMへ移行した話をすると、「いやすべて3D設計にすると、かえって時間がかかり、そこまでする必要性はない」「そのメリットはあるのか?」などと言われますが、初めからすべてをBIMでやろうとして、BIMに対するハードルを自ら上げているように感じます。そうではなくて、「設計の修正時間が大幅に減って、その分、本来の設計にフォーカスできるようになる」と言うと、それなら分かると理解を示してくれます。

私の設計スタイルは、最初のプレゼンテーションは手書き図面と模型が主体です。これを3Dに変えるつもりはありませんし、ここは3Dよりもスケッチの方がイメージを伝えやすく、検討スピードも素早く直感的に捉えやすい点から設計のベースとしています。そして基本計画案が承認されると、BIMに移行する設計手法としています。要は自分の設計スタイルにあった形でのBIMの活用方法を見つけることが大切だと思います。

住まいのスケッチ断面図。手書きスケッチはBIMへ移行しても大切な手段

伝える情報を整理できるBIM

最初の導入プロジェクトは築200年の蔵の改修でした。まだBIMを始めたばかりでしたので、すべてに活用するのではなく、蔵の既存躯体を補強する手法と改修後の蔵の活用方法を、住まい手に直感的に伝えることにフォーカスして使用してみました。

3Dといっても打ち込むデータは現地調査による各部の寸法と状態チェックですので、アナログ的です。曲がった梁を表現するのは棟梁にとどめて、あとは直線で表現するなど、必要な情報をどのように扱い、データ化するかの意識が大切です。いったん構造躯体をデータ化できれば2D設計とは違い、収納物があふれかえった内部の本来の見え方をさまざまな角度から住まい手に伝えることができ、また改修後にどのように収納物を整理するかを、住まい手自身に考えてもらう造作家具表として伝えることにも役立ちました。

その過程で床に枕木を敷いて、古い座卓のテーブル化やオーディオ、ピアノ置場として活用する提案へつながり、ワインと演奏と趣味の部屋として利用するという、当初なかった提案をすることができて、思いもよらぬ改修方針へと発展していきました。これはBIMでなければ起こらなかったと思います。

(左)蔵の内部計画をイメージと展開図で表現。屋根は厚みだけの表現とし、破風や水切りなどは2Dで
加筆している
(右)蔵内部完成。当初の収納空間が、住まい手とBIMでイメージを共有して生み出された趣味空間へ
と変化

基本計画段階でのBIM

住まいの設計の基本提案はスケッチや模型が主体ですが、BIMは計画地の環境分析にも役立ちます。GoogleEarth から現地の空撮を読み込み、そこに簡単なボリュームを置いて、敷地内にある18mの大ケヤキや3階建て隣家からの日陰、中庭型プランを計画した状況を日影ソフトのADS-BT for VECTORWORKSを活用して冬至夏至でシミュレーションしましたが、これも3Dならではの活用です。

住まいの夏至・8時と15時の日影チェック。基本計画段階での住まい周辺環境の検討イメージ

別のプロジェクトは山口県にあるホテルで、カラオケルームを日本酒バーへ改装することに合わせて、ホテル入口→ホール脇カウンター→ラウンジへ、宿泊・来訪者の流れを静岡県産材Jパネルの組立式パーテーションで効果的に誘導する提案です。

まず、現状のホテル白焼き図面の該当する平面図の一部から、床・壁・天井をざっとBIMで作成して全体俯瞰図を表現して各場所での改修イメージを伝えると同時に、Jパネルパーテーションの設置展開図と製作詳細図をシートレイヤに切り出し、より具体的なイメージを伝えることができました。イメージと展開図、そしてパーテーション詳細図が同時に表現できるのもBIM だからこそです。

(上)ホテルの日本酒バーリノベーションと改修イメージ
(下)改修イメージの中心となる木製パーテーションイメージ
日本酒バーとラウンジと畳小上がり

基本設計・実施設計・現場監理で役立つBIM

BIM では一つのファイルしか存在せず、必要な図面はシートレイヤと呼ぶ各シートへ切り出します。

住まいの基本設計では、手書きの基本計画案が決まった段階でBIMの入力を開始し、住まい全体のボリューム出しを行い、そこから収納計画図(展開図)を切り出して、造作家具・電気・設備などの打ち合わせを進めていきます。

ここがBIMに移行する最大の利点です。2D設計のように個々の図面を描くのではなく、BIMでは平面図、立面図、断面図、矩計図、展開図、内外建具表、造作家具表を切り出して表現するため、一部の変更が全ての図面に反映されるので、修正に対する作業の効率化が図れます。この収納計画図を通して住まい手とやり取りをしながら変更を加えていくことで、そのまま実施設計データへの深化が進みます。

そしてここが肝心な所ですが、最初からすべてを3Dで表現しようとしないことです。これはひとり設計監理ではBIMへ移行するためにハードルを上げすぎないという意味で必要なことだと思います。BIMへの取り組みの話なのに矛盾しているように聞こえますが、私は屋根は厚みだけの表現とし破風や水切り、屋根材などは2Dで書き込んでいるに過ぎません。こうした詳細図は3Dで表現するよりもBIMをベースにして2Dで描き込んだほうがより省力化できますし、そのほうが的確です。VectorworksArchitectでは木造躯体を容易に表現できる木造BIM+木造建具ツールが用意されており、在来工法を躯体から表現したい場合にも容易に表現できますので、各事務所の使い方次第だと思います。

住まい手からは、基本構想から基本・実施設計・現場それぞれの図面内容が、直感的によく理解できたという感想をいただきました。

また、現場監理でもBIMは威力を発揮します。私の図面はA2版ですが、大工さんへの指示図に、展開図と2Dで描いた詳細図と共に3Dイメージを加えると、設計意図をより的確に伝えることができて、私の納め方を早く理解してくれます。実際の現場でも、板張の目地とテレビ台、スイッチ・コンセントの位置出しの図面の微妙な寸法出しには、ノートパソコンを現場へ持ち込んで、現場の割付に合わせて再調整という作業もその場でできるので、現場監理にも役立ちました。

テレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」物件では、予算も設計も工期も厳しく、かつ変更も多いのですが、BIM移行後は番組と工務店との設計イメージの共有が素早くできて、図面も都度深化するので、遠隔現場でも伝達がスムーズにできて、結果的に住まい手にも喜んでもらっています。

私は60歳からBIMへの移行に取り組みました。2025 年4月からの建築基準法改正と省エネ基準適合義務化に伴い、ますます多様化する住まいの設計に、「ひとり設計監理の質を上げるためのBIM活用」はぜひお勧めしたいと思います。

BIM の活用事例

「大改造!!劇的ビフォーアフター」物件のリフォーム方針を説明する全体イメージ
「大改造!!劇的ビフォーアフター」(2023年3月19日O.A/2階が傾いた家)
施工中の古民家。リフォームの全体架構と内部イメージ

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プロフィール

松永 務(まつなが・つとむ)

1958 年広島県広島市生まれ。1981年日本大学理工学部建築学科卒業後、一色建築設計事務所東京入社。同社取締役を経て2000年静岡市でアトリエMアーキテクツ設立。住宅設計を中心にしつつホテルや保養所リノベーション、トヨタホームをはじめ住宅メーカー営業設計支援や講演会も多数手掛ける。静岡産業技術専門学校非常勤講師。朝日放送「大改造!!劇的ビフォーアフター」最多出演、匠17回(番組名:森の木の代弁者、島の匠)