導入事例皆を巻き込みチームを一つにするためのBIM

2024.06.03

原 利行

(株)住建設計(京都会)

弊社は 1970 年に創業した京都の意匠設計事務所で、現在は京都タワー近くにオフィスを構えており、14名で公共民間問わず多種多様な用途の建築を設計しています。

BIM を導入した経緯と導入時のルール

弊社では 2015 年に Archicad を導入しました。導入当時、設計実務を行う社員 6 ~ 7 名に対し、ライセンスを 5 本同時に購入。導入費用を考えると事務所としては大きな決断でしたが、近い将来 BIM 設計が主流となると考えていたこと、社員 1 人だけ BIM を使っていてもフォロー体制が整わず上手く続かないと思っていたこと、私が前職で BIM 設計を行っていた実績があったことを踏まえて、社員全員が BIM で設計できる体制をつくることを目指しました。

また、導入と同時に社内で一つのルールを決めました。これからスタートするすべてのプロジェクトはArchicad を使用することとして、少なくとも基本設計までは Archicad で完結させることを目標に取り組んできました。その後、新しい社員が増えるとともにライセンス数も増やし、現在では全社員が Archicadを使って設計を行っています。

BIM 仲間ができる Archicad

BIM ソフトは Archicad を使用しており、Archicadでモデリングしつつ作図を行い、パースや動画を作成する際には、Twinmotion と連携し、Twinmotion 上でテクスチャや添景などを整えて出力しています。

Archicad を使用していて良い点は、①インターフェイスが直感的かつオシャレで使いたくなるデザインであること、② Archicad ユーザー同士の仲間がつくりやすいことです。

特に②について、GRAPHISOFT 公認のユーザーグループが全国各地につくられており、勉強会や交流会などがオンライン・オンサイトともに活発に行われているため、勤務地付近にいる Archicad 仲間とつながり意見交換ができるだけではなく、全国でトップクラスのユーザーとも気軽に交流でき、自分のスキルアップやモチベーションアップにつながっています。

BIM 導入によるプレゼンテーション力の向上と効率化

BIM を導入したことにより、特にプロポーザルや基本設計では一般図の作図とパース作成までのスピードが格段に増しました。もはや Archicad なしの頃には戻れないほどです。

打ち合わせ時などの施主へのプレゼンでは、パースだけでなく動画も活用しています。関西のとある企業の倉庫+本社機能を含めた建物の新築計画の際、外観デザインを代表者の方にプレゼンする場面では、Twinmotion から出力した動画に BGM を付けて見ていただいたところ大変好評で、スムーズな意思決定を促すことができました。

動画を用いた外観プレゼン

導入当時の 2015 年と比べて現在では、一般の方々の動画への意識やニーズがより一層高まってきていますので、必要に応じてパースよりも動画でプレゼンすることも重要と考えています。同時に手間を考える必要はありますが、Archicad や Twinmotion などソフト側の進歩もあり、BIM による設計を行っていれば動画書き出しまでかなりスムーズに行える、そんな環境が整いつつあると思います。

関係者とのコミュニケーションツールとしての BIM

BIM を導入・活用することによるメリットは多数ありますが、すべてのプロジェクトで明らかに効果を実感するのが関係者とのコミュニケーションについてです。

2DCAD を使用していた頃は、主要な打ち合わせの際に図面とは別で 3D モデリング+レンダリングを行い、都度パースを準備していました。Archicad で設計を始めてからは、図面とモデルが同時に現れてくるため、特別な準備・手間を要せずとも三次元モデルを用いながらクライアントや関係者とのイメージ共有が図れるようになりました。次に 2 つの事例をご紹介します。

【事例 1】御霊神社社務所 
構造設計者とのイメージ共有

京都府南部に位置する木津川市内にて神社の社務所を建て替える計画で、BIM を導入して間もない 2017年に設計を行いました。木造の架構を意匠側で検討するためにラフに構造フレームを Archicad へ入力し、簡易な構造伏図と BIMx を用いて構造設計者と初回打ち合わせを行いました。適切に意匠側の意図を伝えることができるため、打ち合わせ回数も少なくスムーズな構造設計を完了することができました。このように、BIM は設計チーム内での意思疎通を図る上でも効果的だと気付かされた事例でした。

構造設計者とのイメージ共有
御霊神社社務所 外観・内観

【事例 2】広島県動物愛護センター 
発注者、施工者とのコミュニケーション

チームという概念をさらに広げて、一つの建物をつくる上で登場する発注者、設計者、施工者の 3 者間でのコミュニケーションの事例です。

広島県三原市にて、広島県が所有運営する動物愛護センターの移転建て替えを行う計画で、PFI として設計・施工・運営が一つのチームとなって取り組み、2023 年 6 月に竣工したプロジェクトです。

設計段階では、広島県職員の方々と PFI 側の運営者に対して、動物愛護センターという特殊な機能をもつ建物の設計内容のうち、部屋の大きさ感、部屋同士のつながり感、動物・職員・来館者の動線など 2D 図面では伝わりにくい部分について、パースや BIMx によるウォークスルーを活用しながら、建築の専門家ではない皆さんになるべく分かりやすく丁寧に伝えてきました。

広島県動物愛護センター 外観・内観
設計内容の説明

施工段階では、各部納まりの設計意図を現場監督に伝えるため、BIMx の画面を iPad でスクリーンショットしてスケッチやコメントを書き込み、図面とともに渡して相談するという形で進めました。建築・電気・機械それぞれの分野で BIMx を活用したところ、それぞれの監督さんと完成イメージを共有できたことで、皆さんのモチベーションも高まり、より良くつくろうと一丸となって取り組むことができました。

施工者に意図を伝える BIMx +スケッチ

一つの建物をより良くつくるためには、発注者・設計者・施工者の 3 者が同じ目標に向かってモチベーションを高めて進めることが不可欠だと考えています。BIM は、建設に関わる人々を巻き込み、ワクワクしながらチームとして一つにまとめる一助となるツール、という設計・建設において非常に大切な部分を補う側面を持っていると考えています。

さらに運営・維持管理段階での今後の試みとして、PFI チームでは県の運営をサポートする業務も担っているため、維持管理会社も設計段階から Archicad のライセンスを購入しており、設備機器や仕上材など主な製品管理への活用を検討中です。さらに、県が週一で行っているバックヤードツアーをオンライン上でも開催できるよう BIMx モデル内に各部屋の説明情報を入れて HP 上に公開することも検討しています。

BIM を利用することによる発注者のメリット

公共建築の場合、発注者が地域の方々へ説明会などを行う機会も多いと思います。また関わる人も多く、内部での決裁のために課長や局長、時には市長や知事への説明が必要となります。上の立場の忙しい方々に対して、2D 図面だけで説明していては伝えることに多くの時間を割いてしまうことになります。BIM であれば、プロジェクトの目的とその結果をビジュアルで短時間に伝えることができ、伝わった上での検討や指摘、承認のために時間を使うことが可能です。

また、一般的に基本設計・実施設計は営繕課のような建築の専門の方々が発注されますが、基本計画のようなプロジェクトの川上の部分は教育委員会や福祉課のような建築以外を専門とする部署から発注されるケースが多いと思います。広島県動物愛護センターの事例では、PFI ということもあり、打ち合わせ等の担当部署は広島県の食品生活衛生課という愛護センターを運営する側で、建築の専門ではない方々でした。

そういったプロジェクトの川上である基本計画に対しても、敷地に対する配置検討やボリューム検討にBIM を活用すれば、周辺環境や景観に対する配慮など、2D 図面だけでは建築の専門ではない方々には読み取ることが難しい内容についても、早い段階で一緒に検討を行うことができます。

また、広島県動物愛護センターの事例では、県職員の方自らが BIMx データを活用し、県主催のイベントの中で完成前の新動物愛護センターを知ってもらう機会を創出されていて、驚くとともに面白い活用方法だなと大変嬉しく思いました。

イベント時に発注者自ら BIMxを活用して新センターを周知

ぜひこれからの公共建築の発注の際は、BIM を含めてみてはいかがでしょうか。実施設計や構造設備までのいわゆるフル BIM ではなくても、基本設計だけなど小さく BIM を含めた発注が全国の自治体に広がれば、自ずと各地域の設計・施工に携わる方々の意識の変化やスキルの向上につながると思いますので、小さな一歩からはじめて皆で向上していきましょう。

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プロフィール

原 利行(はら・としゆき)

1985 年広島県三原市生まれ。2008 年九州大学工学部建築学科卒業、2010 年九州大学大学院修士課程修了ののち、意匠設計事務所での勤務を経て、2013 年より(株)住建設計に勤務。現在は同社取締役/シニアマネジャー。Archicad ユーザーグループ関西(UGK)の運営メンバーを務める。