導入事例BIM で見据える未来、業務改善のみならず変革を促す

2023.08.01

石井 繁紀

(株)石井設計(群馬会)

BIM を導入した経緯と導入初期

建築設計業界の中で BIM という言葉を聞くようになったのは 2011 年前後だったと思います。当時はまださほど認知もされていなかった BIM ですが、思い切って Archicad の体験版を初めて使い始めてみたのが 2013 年でした。

弊社のスタンスとして「新しいモノは積極的に使ってみる」という志が根底にあり、BIM についてもその例に漏れず、将来 BIM が普及し広く一般化した時に始めたのでは手遅れなので先を見越して行動しておくべきとの考えから、最初の導入まではとてもスピーディーでした。

BIM の PR にはよく「3D ベースでモデルを作成すれば、パースから図面まで一通りできあがる」との謳い文句が使用されていますが、この文言はすでに1990 年代から一定の 3DCAD で使われており、BIMというものが特段目新しいモノだという認識はあまりありませんでした。しかし、それにインフォメーションが付加されると図面としての密度が上がり、建築設計実務における納まりや見え方、仕様の確認等が容易になり、複数部門を横断する設計の協働作業が迅速にできるようになるというメリットの部分に惹かれ、大きな期待のもと導入を決めました。

ただし、いきなり全社を挙げて複数ライセンスを導入するのは控え、最初は1ライセンスだけの導入に留まりました。しかし、1ライセンスだけでは行き詰った時に相談する相手もいない、協働作業もできない等、享受できるメリットが激減しました。今思えば、後々の導入スピードが鈍化した要因はここにあったのかもしれません。

現在では数十ライセンスを所有し意匠設計部門全員が BIM を使用し設計していますが、この状態にやっとたどり着いたのが 2019 年頃なので、初めて導入した 2013 年から本格稼働まで実に 6 年を要してしまいました。

導入した BIM ソフトと利用状況

弊社が導入を決めた BIM ソフトは GRAPHISOFT 社の Archicad です。弊社のサポート会社からお勧めされていたこともあり、物は試しと体験版をインストールしてみたところ、思ったよりもハンドリングの良さを感じ、即正式導入となりました。一方、導入にあたり複数の BIM ソフトを比較検討しなかったことは拙速な判断だったと思いました(後に Revit と GLOOBEも導入)。

Archicad を使ってみる前は、外国産だし取り扱いが大変そうだなといった偏見を持っていましたが、いざ使用してみると非常に解りやすい UI で、ツール類も洗練されているので、初めて使用する若手でもモデリングだけであればそれほどの時間をかけずに習得できてしまいます。さすがにリスト作成や図面化、数量拾い等は綺麗な成果品で仕上げようとすると多少の経験と慣れが必要ですが、企画設計から始めて徐々に手に馴染ませながら自分の設計ツールとして育てていく感じで使用していくのが望ましいと思います。

(左上)Archicad の BIM モデル、(右上)BIM モデルで全 Floor の断面表示
(左下)LOD の詳細度を上げた BIM モデル、(右下)Archicad で使用するさまざまな自社ライブラリ

社内における育成方法と使用状況

弊社の新入社員は Archicad の基本的なチュートリアルはサクッと終わらせてしまい、以降はすべて実務で使いながら覚えていくスタイルです。常に周りにアクティブユーザーがいるというのも非常に重要で、操作方法等で分からないことがある時でも、大抵の問題は誰かが回答して即時解決しています。それ以外にも、Archicad に関する便利な使い方や設定の TIPS 等を社内サーバーの掲示板に誰でも書き込みできるようにして共有し、情報のインプット量に乖離がないようにしています。

意匠設計部門全員の導入まで紆余曲折あった BIMも、現在の使用状況は企画・基本設計までは 100%の使用率となっています。一方、実施設計は一部の案件で試行的に使用しているのが現状です。すべての案件で実施設計まで完璧に BIM 化するには、共通ライブラリの充実、入力ルールの整備、納まり仕様書の整備、複合構造のリスト作成等々、弊社の場合はまだまだ決めなければいけないことが山積しており、完全 BIM 化まではいまだ到達していないのが現実です。

部門間のデータ連携

弊社は意匠、構造、設備を有する総合建築設計事務所ですが、建築設計部は Archicad、構造設計部はRevit と SIRCAD、環境設備設計部は Rebro と、各部門での効率的なソフトをメインに据え、その他に複数のソフトウェアを使用して部門間での連携を行っています。その際、部門間で行うデータ受け渡しの中間フォーマットですが、構造は ST-Bridge を、設備はIFC を主に使用しています。

一般的に言われている OPEN BIM の概念で運用するのであれば、すべてのデータが IFC で受渡されるのが望ましいのでしょうが、構造の情報がすべて入ったIFC だと、Archicad の動作に影響が出てしまい、ハンドリングが悪くなるので、弊社では形状情報だけを持った ST-Bridge を使用し、構造部材の積算等は別ソフトを使用しています。

基本的に構造設計と意匠設計は ST-Bridge のデータなので一方通行になることが多いですが、設備設計と意匠設計においては、データのキャッチボールが頻繁に行われる傾向があり、それが設計の確度を高めることに寄与しています。

BIM で各部門のデータを統合することにより、不整合箇所や干渉部のチェックを 3D でリアルタイムに行うことができるため、単純なヒューマンエラーによる不整合は減少しました。

意匠モデルを Rebro にインポートして確認
(左)一貫計算モデルを 3D 表示したもの、(右)機械設備を統合して干渉チェック

導入後の変化と未来

本格的に複数アカウントで運用開始してから、設計業務全般のワークフローや社内外の合意形成に要するタイムスケジュールの改善は顕著でした。

業務のワークフローで大きく変化があったのはBIMcloud を活用したチームワークでの業務形態です。BIMcloud を利用してプロジェクトデータをクラウドサーバーに置くことで、一つのデータに複数人で同時にさまざまな場所からアクセスして協働することが可能になりました。これにより、社内はもちろんテレワークの社員、クライアントとの打ち合わせ時においてもアクティブのプロジェクトデータに瞬時にアクセスし、タイムリーにデータに反映させることができるようになり、業務上課題であった移動時間のロスが削減できました。

また、全員が最初から3D モデルで設計することで、BIM でできあがった 3D モデルをさまざまな形で流用することが可能になりました。

特に Twinmotion 等を使用したビジュアライゼーションの進化は目覚ましく、設計者個人で非常にリアルなイメージ画像や動画がほぼリアルタイムで作成可能になりました。企画提案書・社内レビュー・コンペに至るまで、さまざまな場面で活用しており、今まで図面と文字だけでは伝わらなかった設計意図等が、誰にでも一目で理解しやすくなったとクライアントから好評をいただいております。

OFFICE 計画の外観パース。BIM データを基にハイクオリティなイメージ画像が作成可能

また、3D モデルをゲームエンジンにインポートし、マルチユーザーでモデル内を VR で自由に移動できるインタラクティブなコンテンツ作成にもチャレンジしています。

今後は AI の著しい進化により、BIM 界隈にも影響範囲が拡大され何らかの機能が実装されてくるであろうことは想像に難くありません。新しいことには何かと後手後手の建築業界ですが、この先の DX 加速に向けて一歩でも先に進むべく BIM の普及に努めていきたいと思います。

(左)プレゼンに使用する動画を編集、(右)SEIN を用いた制震シミュレーション動画

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プロフィール

石井 繁紀(いしい・しげのり)

群馬県前橋市生まれ。日本大学理工学部建築学科卒業後、1989 年(株)石井設計入社。2004 年(株)石井設計、2007 年(株)石井アーキテクトパートナーズ代表取締役。2015 年(株)石井アーバンデザインリサーチ設立。建築とまちづくりのシナジーを目差して活動中。2020 年(一社)群馬県建築士事務所協会会長