導入事例作業時間の半減や施主満足度を高めたBIM

2023.04.03

堂本 隆司

堂本建築計画工房(山梨会)

3D 活用開始

私にとっての 3D 活用のスタートは SketchUp で、プランニング当初のプレゼンのために利用していました。その後、比較的小さな建物で外観を中心に完成させ、検討用と施主への説明に利用していました。

独立後は低コストと手描き感覚で作図できる Jw_cadを利用していましたが、事務所の運営も安定し、次に使う CAD ソフトを何にするか検討する中で、最終的にはAutoCAD を選択しました。契約にあたり少し上乗せすれば BIM(簡易版 Revit)がセットになったものがあるということで、調べてみると Revit のデータベース化のしやすさや、構造・設備設計や積算事務所との連携が可能であることから将来性があると考え、そのセットを契約しました。しばらくは設計作業中の気分転換も兼ねて 3D作成として使い始めたのですが、少しとっつきにくい感じで補助的な利用がメインでした。

SketchUp でプレゼン用に作成した 3D

BIM 導入のきっかけ

2017 年に私の所属する山梨県建築関係団体の企画で、BIM の Archicad および Revit 等の講演会を行い、Revit の方は当時、大成建設(株)で BIM を推進していた高取昭浩氏を招いて行われました。それをきっかけとして BIMへの移行を本格的に考えるようになりました。

導入後は、手始めに小規模店舗、住宅などの小規模物件で BIM の利用を開始しました。そこで基本的な使用法を学びましたが、まだ AutoCAD との併用で設計図を作成しており、本格導入の案件の機会を待っていました。

特別養護老人ホーム結いの丘(藤沢市)導入事例

正月休みを利用した入力での本格スタート

そんな中、神奈川県内の社会福祉法人と取り組んだ藤沢市の特別養護老人ホームの公募において、数グループの中から選定されました。その後、行政との補助協議が進む中で、設計作業を CAD で行うかそれとも BIM にチャレンジしようか悩んでいました。BIM で進めるといっても使いこなしているわけではなく、自信があるわけでもなかったのですが、たまたま 2018 年の年末に差しかかる時期と重なったため、正月休みを利用してダメ元で入力してみようと思いました。古い人間ですのでまずは解説書を購入し(最近は Web 上で YouTube や高取さんが運営している Revit Peeler などを見た方が参考になると思います)、さらに Revit の本格版を契約して入力を始めました。年末から年明けまでの 10 日程度で基本となる大まかなモデルの入力が終了しました。通常の業務期間で本格的にスタートするには、他の設計作業の中での合間を見つけながらということになりますので、時間的になかなか難しいと思いますが、たまたま休み期間中に基本入力作業を行えたことが良かったと思います。

その後、本当に実施設計終了まで BIM で進められるか不安はありましたが「ここまで入力したのだからもったいない」という意識で、自分自身を縛り、追い込んで進めることができました。進めてみると思いもよらずいろいろと便利で、変更作業のしやすさなどさまざまな場面で BIM の良さを痛感することとなりました。

結いの丘 (左)BIM で作成した 3D  (右)実際の外観

構造事務所および設備事務所との連携

構造設計は、横浜市の(有)ジー・クラフトの三浦さんに依頼したのですが、Revit を導入していたため、BIM データを共有し、構造躯体データの伝達や開口部サイズなどスムーズに連携できました。

設備設計は富士吉田市の城之内建築設備企画の城之内さんに依頼しましたが、かなり前から設備設計の BIM ソフトである Rebro を導入済みで、意匠事務所が BIM 未導入の場合は自分たちで建物モデルを作成し、構造体との干渉チェックなどを行っていたようで、今回は効率の良い設計ができたようです。Revit と Rebro とのデータのやり取りは、Revit に Rebro のアドインソフトを経由して行うようになっています。

(左)3D 構造図  (右)Rebro との連携による設備 3D

建具、衛生陶器、サッシメーカーとの連携

Revit のモデルを作る上で、建具、家具、衛生陶器などは「ファミリ」という名称で個別データとしてモデルの中に存在します。ソフトの中には基本的なものがすでに存在していますが、メーカー仕様のもの、独自のものなどは自分で作成する必要があります。ただ、作成にはもう一歩踏み込んで作成方法を理解しないと難しく、各メーカーも自社製品の BIM データの公表を始めていますが、まだまだ少ないと感じています。いずれは多くのメーカーのデータが揃い、便利になると思います。

今回の物件の場合は、福祉施設の引戸を多く手掛けているコマニー(株)に建具デザインを反映したデータの作成を依頼しました。BIM データはすべての情報が入ったワンファイルで存在するため、取り扱いに注意してもらった上でデータを共有し、納まりのチェックなどもしてもらいました。また、衛生陶器やアルミサッシなどもまだ BIM データが公表されていないものがたくさんありますが、メーカーに依頼して作成してもらいました。

(左)コマニーが作成したドアのデータ  (右)コマニードア 実際の内観
(左)衛生陶器メーカーが作成したトイレ部品  (右)サッシメーカーが作成した RC 用面一サッシ部品

作業量の減少

BIM 導入前と後では、作業量に明確な変化がありました。今回の物件の数年前に東京都下で 120 床の特別養護老人ホームの設計を行いましたが、その時の意匠設計のプロジェクトメンバーの数は、携わり方の大小はありますが 5 名で、今回の藤沢の 100 床の特養では 3 名で設計を行いました。実際の作業時間としてはほぼ半分になりました。

BIM の場合は、例えば壁、床、屋根等は基本設計段階では単なる厚みを持った要素として入力し、実施設計段階で各要素に仕上げ、下地等の情報を流し込むだけになります。そのため、例えば平面図と平面詳細図は同じデータの見せ方の調整で済み、新たな図面作成の必要がありません。さらに大きな違いとしては、モデルができると設計意図伝達方法としての 2 次元化は、イメージとしてはある部分を水平または垂直に切ることにより、平面図・断面図・展開図などが作成できますので、特に展開図など説明的図面作成の時間短縮ができ、建具表も BIM データからの建具要素を表に割り当てるだけで済みます。BIM モデル作成にはかなりの時間を割かなければならないですが、一度できてしまえば、その後の変更等は比較的簡単に進めることができます。また、2Dの CAD ソフトとの最大の違いは、図面の不整合等が存在しないことです。これにより無駄なチェック作業が必要なくなり、業務の効率化につながります。

(左)BIM モデルを水平に切断して平面図を作成  (右)BIM モデルを垂直に切断して断面図、展開図を作成

BIM のメリット

基本設計から実施設計において、設計の方向付けの意思決定のために模型も作成しましたが、内部空間の施主理解ではレンダリングした画像や移動可能な 3D 表示が非常に分かりやすく、2D 平面+言葉による説明よりも施主の理解が向上したと感じました。最終の色彩計画において施主確認の画像は、各メーカーの JPG データを活用し、壁紙、床シート、床タイル等を各部分に割り当て、照明も製品に基づき設定してレンダリングすることにより、現実に近い感じで表現できました。

完成後の様子はレンダリングした 3D 画像やウォークスルー動画、VR ゴーグルによるバーチャルリアリティー体験により確認できるため、完成後のイメージの相違がなく、施主満足度の向上が図れたと思います。

結いの丘(左)共同生活室の BIM モデル  (右)実際の共同生活室
地域交流コーナーの BIM モデル

設計作業における思考方法の変化

手描きで図面を描き始めた私たち世代は、一本一本の線を引くにあたり立体を想像し、場合によってはスケッチを起こしながら納まりも検証して平面図を作成していきましたが、断面図、矩計図、立面図を描いてみると、ちょっとイメージと違う、納まらないなどが分かり、調整作業をしつつまとめていくという思考方法で進めてきたと思います。

BIM はいきなり模型作成をしつつ計画を進めていくように、常に立体としての各構成を考え入力していかなければならないので、平面を考え縦方向を検討するという段階的な思考法ではなく、常に部分も全体も、さらには詳細も俯瞰した視点で考える思考法に変化してきたと思います。

BIM 導入にあたって

私は数年の 3D 画像作成だけのための利用を経て導入しましたが、経験上、BIM を使いこなすまでには多少の期間が必要な気がします。BIM を利用し始めた頃は入力時間が余分にかかりますが、この間は少し辛抱しなければなりません。私の場合は実施設計での利用を始めて 2年ほどでやっと実施設計に必要な入力が可能になりました。BIM はいろいろな種類のソフトがありますが、Revitは習得までに少し時間がかかるタイプのソフトだと感じました。導入費用の問題はありますが、スタッフの多い事務所の場合は、まずはチームごとに 1 台配置するなどして対応していけば良いかと思います。

私の今後の課題

私としては、やっと BIM による設計作業が可能となりましたが、まだまだ学ばなければならないこともあります。まずはファミリデータの作成が自由にできることが課題としてあり、さらに BIM データのデータベースの利用方法と積算ソフトとの連携、構造設計や設備設計とのデータの共有化も協力事務所と共に考えていきたいと思います。プレゼンテーションにおいては、レンダリングソフトである Lumion や Twinmotion の利用による表現力の向上を図りたいと思います。

BIM ソフトとしての Revit には、私自身まだ理解できていない多くの活用方法があり、奥の深さや多くの可能性を秘めているように感じます。無駄な時間を削減して良い建築を考える時間を与えてくれるツールとして、BIM を利用してみてはいかがでしょうか。

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プロフィール

堂本 隆司(どうもと・たかし)

堂本建築計画工房所長。1961 年生まれ、1984 年日本大学理工学部建築学科卒業後、(株)奥野建築設計事務所入社。2006 年堂本建築計画工房設立。