コラムBIM普及の取り組み

国土交通省の建築BIM推進会議が発足して3年になりますが、それまで各社や各団体で行われてきたBIM推進が、会社や業種の枠を超えての推進活動になってきています。しかし、まだまだBIMの効果的な使い方やメリット・デメリットが整理されておらず、トップランナーは別としてBIMの導入を様子見しておられる会社・事務所も多いと思います。

BIMの課題

アンケートによる実態把握

国土交通省の2021年のBIM導入のアンケートでは、建設業界全体のBIM導入企業は4割強、総合設計事務所では8割が導入済であるのに対し、専門設計事務所では3割にとどまっています。そのうち、意匠設計事務所は6割弱、構造設計事務所は4割弱、設備設計事務所は3割弱、積算事務所は3割が導入済となっています。その前年の2020年に比べると導入はかなり増えてきており、未導入と回答している会社も半数は導入に興味があるとの回答を寄せています。

BIMの導入に至らない理由として、回答の多い順に下記のようになっています。

  • 1位.発注者からBIM活用を求められていない
  • 2位.CADなどで問題なく業務ができる
  • 3位.BIM習得までの負担が大きい
  • 4位.業務上の関係者からBIM活用を求められていない
  • 5位.BIM人材不足、BIM人材の育成・雇用に費用がかかる
  • 6位.BIMの導入効果がわからない

筆者注:高額な費用が掛かるなどコスト系の回答が低いのは、導入前の企業が多く実態がまだわからない状況だと思います。実際に導入するとBIMをうまく使っていくためにはソフト購入費用だけでなく、運用するための人件費や教育費、ファミリ・テンプレート等のメンテナンス費用、クラウド利用費用など様々なコストが更にかかってきます。

発注者のBIM活用

発注者からBIMがあまり求められないのは、国内の発注が一括請負契約であり、コストやリスクのマネジメントが設計者や施工者などの受託者側にあることが要因の一つです。一方で、外資などの発注者の場合は、国内案件でもBIM指定をされることが増えてきています。運用時の建物情報の維持管理でISO19650が制定されたこともあり、国際標準を考えると今後は発注者(特に海外資本が入る場合)からBIM必須となります。

CADなどとの違い

建築基準法改正や「瑕疵」から「契約違反」への転換など、設計内容に関するリスクが厳しくなっています。納品する設計図書が適合していることは、建築士の業務として図面に表れていない部分においても図面化している部分と同様の品質保証がなされているはずですが、CADのみでは関係者にそこまで細かく意図伝達できているか確認の方法が困難です。

一方で、3Dスキャナなどで安価に発注者やユーザーが測れる時代になってきており、これからは今まで以上に建物全体の細部に至るまで目を届かせなければなりません。そういった意味でもBIMによる品質管理が重要になってきます。リスクを避け、コストや工期のエビデンスを判り易くし、建設側の関係者間でしっかりとした情報共有を行うためにも、BIMでのコラボレーションが重要となります。

BIM習得、人材・育成

BIM導入にはイニシャルコストがかかります。BIMソフトも高額ですし、購入時の状態ではほとんど業務ができません。多くのBIMソフトが、まず必要な部材や図面化するときに何をどう表現していくか、どの数量を拾うかなどのテンプレートや命名規則の整備が必須です。また、従来のCADに比べて図面表現の制約が多く、BIMでの図面表現を考えないとうまくBIMが機能しません。これらのサービスとして、BootOneなどソフトベンダーが市販しているアドインパッケージもありますが、各社のデータの入れ方や表現方法などの調整は必要です。

人材については、BIMソフトを扱える設計者の教育が必要になります。設計事務所では施工者と異なり、無から検討して仕様を決め、部材を選択あるいは作成してからBIM入力することになるので、CADのように「とりあえず線を引けばいい」というものではありません。一見手間のかかるように思えますが、設計者が扱えるようになれば判断しながら入力できるので、指示図を書いてオペレータを介してチェックするよりも、スムースに設計ができるようになります。

一般的になりますが、下記のように案件を3つこなすと使えるようになります。

  • 1回目:一般図レベル(平面、立面、断面)※図面化の下図くらいのレベルで可
  • 2回目:一般図(平面図、立面図、断面)断面は従来表現と差がありCAD加筆が早い
  • 3回目:一般図に加え、面積表、塗り分け図

ソフトベンダーのBIM講習会は基本的な機能の理解に役立ちますので、そういったものを受講するのも早道です。しかし、それだけではBIMは使えません。必ず自社の仕組みをしっかりと研修する必要があり、そこでファミリやオブジェクトなどの部材やテンプレートの理解が必要です。

BIMの導入効果がわからない

一見非常に便利なように感じるBIMですが、従来の設計業務に当てはめようとするとハードルが上がりますし、せっかくのBIMが手間のかかるものになってしまいます。BIM導入には、業務フローの見直しや組織の見直しなども含めての検討が必要です。意匠・構造・設備が一元化して検討や確認ができるのもルールに従って入力された場合のみで、CADのように図形が重なればいいというものではないからです。しかし、関係者がBIMのルールに則ってモデルを作成していれば、積算との数量・コスト連携、換気計算・負荷計算・省エネ計算などとのシミュレーション連動、構造解析との連携など、さまざまな業務がつながってBIMの力を発揮できるようになります。

普及に向けて

建築BIM推進会議の動き

建築BIM推進会議から2022年3月にガイドライン第2版が発行されました。第1版からは、発注者の役割の部分と、目的の異なる設計BIM、施工BIM、維持管理BIMの連携の考え方が追記されました。これには、建築設計三会が2021年11月に発刊したガイドラインのフェーズごとのモデルの考え方、受渡に必要な情報なども連携しています。設計者は両方のガイドラインを参考にすると、どの段階でどこまでのBIMモデルが必要で、それにかかるコストは発注者と協議できるものかどうかの目安になります。

建築BIM推進会議では2020年度からBIMモデル事業を行っており、その報告書も国土交通省のHPに掲載されています。2020年度は設計から施工、維持管理と受託者側での連携が主で、2021年度では設計と発注者、施工と発注者など、発注者のメリット・デメリットを主としています。

さらに、建築BIM推進会議では検討部会として7つの部会のうち5つを立ち上げ、関係者での討議を行っています。

  • 部会1:業務フロー
  • 部会2:ライブラリ
  • 部会3:確認申請
  • 部会4:コスト連携
  • 部会5:共有環境CDE

どれもBIM推進にとっては無くてはならないものです。

また、2022年度からは国際標準との連携や、BIMの知的財産権など、情報が流れていく範囲が広くなるにつれてのメリット・デメリットについて検討予定です。

令和4年3月24日の建築BIM推進会議内で令和4年度に向けた下記説明がありました。
「⼈材育成、中⼩事業者の活⽤促進」や「ビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携」については、モデル事業等で知⾒を得つつ、引き続き建築BIM推進会議にて現状の把握や今後の進め⽅等について議論したうえで、必要に応じて部会設置等も検討を⾏う。

生産性向上と情報の整理

BIMによる業界全体のメリットは、情報連携することによる二度手間三度手間の削減、シミュレーションによって部材などの歩留まりを減らし、効率よく品質のいい維持管理に優れた建築物がコストパフォーマンス高くできること。さらに、できた建築物が発注者にとってより大きな利益を生むサービスに繋がるということです。ただ、これには関係者全員が共通言語のようなものを持たなければ情報がスムースに流れません。海外、特に米国だと発注者がEIRによって情報の整理を行い、受託者はそれに従ってモデルの中に情報を入れていけばいいのですが…。国内の場合は設計と施工、施工から維持管理というように受託者間での情報の受渡が重要になります。そのため、建築BIM推進会議のワークフローでは情報を整理・つなぐための役割として、ライフサイクルコンサルティングを定義しました。

現状ではライフサイクルコンサルティングの議論中なので、当面はそれぞれのフェーズで入力したデータのうち、「確定しているもの」「決め切れていないもの」「まだ未確定のもの」などを伝えることから始めるといいと思います。統一したプラットフォームがまだないので、お互いの情報の正確さが明確になるだけでも随分と情報の活用が進み、それを推進会議などにフィードバックすることで情報の受渡の一般的ルール作りに役立ちます。海外の設計事務所の例では、BIMなどのデータ渡しの時に大容量のデータに関する注意事項が添付されます。その中で確定事項や未確定事項、知的財産権の範囲、利活用や修正した場合の責任区分などが記されています。

ライフサイクルコンサルティング業務は、設計事務所が担うこともできますし、PM/CM会社、ゼネコンや維持管理者、ITベンダーなどにも可能性があります。しかし、オーナーズコンサルとしての設計要件をオーナーと共に進めてきた設計者が優位にあることは間違いありません。情報処理のフローも設計に取り組み、活躍の場を広げる可能性がBIMにはあります。BIM推進の風が吹いているので多少ハードルは高いかもしれませんが、みんなで知恵を出し合っていけはBIMで得られるものも多いのではないでしょうか。

ただ、前述したように「この教育を受ければ」とか「このマニュアル見れば」ということでは、実際の業務でなかなか使うことができません。日事連ではこのHPを中心にBIM啓蒙の活動を記載していきますので、ご覧になっている皆様と一緒にBIM推進を行っていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

関連資料のリンク

文中に記した国土交通省と設計三会のガイドラインは、国土交通省の建築BIM推進会議のHPよりダウンロードできます。

国土交通省ガイドライン
「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」(令和2年3月)
「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)」(令和4年3月)

設計三会ガイドライン
「設計BIMワークフローガイドライン 建築設計三会(第1版)」

執筆者:BIMと情報環境WG委員 吉田 哲