Panel Discussion実務者が語り合うBIM連携の現場

実務者が語り合う BIM連携の現場 「まずは完璧に使わなくていい」 地方設計者が語る等身大のBIM活用と協働

BIMの活用は、大手組織やゼネコンだけの話ではありません。長崎県と兵庫県淡路島という離れた拠点で活動する久家一哲氏と不動剛志氏は、BIMを介した協働設計によって、スピードと質を両立する設計を実践してきました。
本対談では、建築生産マネジメントの専門家・志手一哉教授を交え、「作り込みすぎない」BIM活用のコツや、地方だからこそ生まれるチーム設計の可能性について語っていただきました。

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参加者プロフィール

  • ファシリテーター 志手 一哉氏
    ファシリテーター

    志手 一哉

    芝浦工業大学 建築学部建築学科・教授。1992年に株式会社 竹中工務店に入社し、施工管理、生産設計、研究開発に従事。現在は芝浦工業大学にて建築生産マネジメント分野の教育研究に従事。

  • 株式会社 久家設計事務所 久家 一哲氏

    株式会社 久家設計事務所久家 一哲

    1984年長崎県生まれ。2009年大阪大学大学院修士課程修了後、(株)昭和設計に入社し、10年間大阪にて勤務。19年から(株)久家設計事務所、長崎を拠点に活動。

  • 株式会社 Fstudio一級建築士事務所 不動 剛志氏

    株式会社 Fstudio一級建築士事務所不動 剛志

    1984 年兵庫県生まれ。2010年大阪大学大学院修士課程修了後、(株)東畑建築事務所に入社、21年Fstudio 設立、21年~25年 摂南大学非常勤講師、兵庫県淡路島で活動。

テーマ01地域におけるBIM導入のリアル

BIMがつないだ、離れた拠点での協働設計

志手

まずは、お二人の経歴、そしてBIMとの関わりについて簡単に教えていただけますか。

久家

私は長崎県の五島列島出身です。大学進学で大阪に出て、卒業後は組織設計事務所に10年間勤めました。BIMとの出会いは入社4、5年目の頃ですね。その後、長崎に戻って父が設立した設計事務所に合流し、諫早と上五島の2拠点で新築・改修問わず基本的にBIMを使って設計を行っています。

不動

私は兵庫県の淡路島出身で、大阪の組織設計事務所に11年勤務した後、2021年に地元で独立しました。私も久家さんと似ていて、入社4、5年目のBIM導入期に触り始め、独立後もRevit(レビット。BIMソフトの一種)を使い続けています。

志手

お二人とも、前職でBIMの経験を積まれてから、それぞれの地元に戻って活動されているわけですね。そんなお二人が、長崎県諫早市に新社屋を建てるプロジェクトで、BIMを使って協働したとのことですが、これはどういった経緯で始まったのでしょうか?

久家

きっかけは、クライアントから求められた「スピード感」でした。実はこの案件、何社かに打診があったようで、早くいい提案を作りこめることが勝負どころだなと感じました。

不動

久家さんから「ちょっと手伝ってくれないか」と電話があったのが、そのクライアントへ営業に行ったその日でしたよね(笑)。

久家

そうなんです。そこで、BIMを使える不動さんとなら、短期間でも密度のある提案ができるはずだと思い、声をかけました。そこから2週間ほどで最初の叩き台プランを提案したところ、そのスピード感を高く評価していただき、受注につながったという経緯です。

志手

なるほど。「協働」ありきではなく、「スピード感のある提案」を実現するための手段として、BIMによる連携を選んだわけですね。

不動

はい。従来の2D CADでのやり取りだと、どうしても図面の整合性を合わせる作業に時間を取られてしまいますが、BIMならモデル(建築全体の3Dデータ)を共有して「ここをこうしよう」とダイレクトに編集できますから。

志手

まさにそこが「BIM活用」のメリットのひとつだと思います。

テーマ02協働設計を支える、情報共有のあり方

「1回図面にする」がなくなると、スピードはここまで変わる

志手

物理的に離れた場所にいるお二人が、具体的にどのようなワークフローで設計を進められたのか、詳しく伺えますか?

久家

図面を見ながら議論するのではなく、基本的に週1回、多い時は週2回ほどオンラインで繋ぎ、Revitのモデルを画面共有しながら、その場でどんどん編集していくスタイルで進めました。

志手

その場で直していくというのは、すごいスピード感ですね。

久家

2Dの図面だけでやり取りしていると、「ここが納まっていない、どうしよう」というキャッチボールに時間がかかってしまいます。でもBIMなら、「ちょっと今からオンラインで繋いでいいですか?」と連絡して、その場でデータを修正して、「これでいきましょう」と決められます。検討の手数を増やせる分、質の向上にもつながるのが大きなメリットですね。

不動

「1回図面にする」という作業がなくなるので、意思疎通が圧倒的に速いですね。展開図や建具のキープランなども、タグ(図面上に部材の属性情報を表示する注釈)を入れるだけで済みますし、修正も簡単な操作で完了します。2D的な作図作業に時間を取られることがないので、短期間でもプロジェクトをグッと前に進められる感覚がありますね。

志手

肌感覚として、従来の2D CADでの作業と比べてどれくらいの効率化になっていると感じますか?よく「BIMは工数が増える」という声も聞きますが。

不動

少し大げさかもしれませんが、作業量は3割ぐらい減っているんじゃないかと思います。

久家

私は、平面図作成などの労力は4割減、あるいはもっと少なくなっている感覚です。CADならまず壁芯を入れて、そこから壁厚を入れて、建具を入れて、全部トリミングして……と操作しなければなりませんが、Revitなら壁の種類を選んで配置し、属性を当てればそれで終わります。単純に、クリック数が圧倒的に少ないのは間違いないですね。

志手

それは重要なポイントですね。「BIMは手間がかかる」と思われがちですが、慣れれば3割、4割も効率化できるというのは意外と知られていないかもしれません。

詳細図と立体の画像

テーマ03BIMで連携する際に直面する壁

BIM活用のコツは「作り込みすぎない」こと

志手

基本設計に入る前の企画段階など、初期フェーズでのBIM活用についてはいかがですか?「BIMは、まだ仕様や寸法が曖昧なフェーズでは使いにくい」という意見もあります。

久家

私はむしろ、設計初期から基本設計の段階で「どれだけ詰め切れるか」がBIMの肝だと思っています。

不動

初期段階で大切なのは「検討の数」と「ビジュアル化」です。自分たちが納得してクライアントに出すために多くの検討を行い、それを分かりやすく伝えるという観点から考えると、BIMなら作業量が少なくて済む分、チームで議論したり検討したりする時間を増やせるんです。これが最大の強みと言ってもいいかもしれませんね。

志手

初期段階でBIMを使うためのテクニックやコツはありますか?

不動

「とりあえず」のファミリ(BIMソフトで使う3Dモデルの部品データ)を用意しておくことです。「とりあえずここにドアがある」「壁がある」ことだけ示せればいい、肉付けは後でいい、という詳細を省いた計画検討用のシンプルなパーツを準備しておくと良いと思います。

設計初期はシンプルなパーツを用いて検討

久家

最初から「RCの素材を入れなきゃ」「厚みを正確に設定しなきゃ」と思い込んで入ると大変です。まずは「ここに壁があればいい」というレベルで線を描くように作っていき、後から置き換えていけばよいのです。

不動

我々はそのあたりの「力の抜き加減」の共通認識があるのでスムーズですが、初めてBIMに触れる方は、「詳細まで作り込まないと気が済まない」となって、余計な時間がかかってしまうことがありますね。3Dのモデルをベースに詳細図を書き足していくような柔軟な対応もあるので、すべて3Dで作りこまないと図面にならないという捉え方を変えると導入のハードルは下がると思います。

志手

「コミュニケーションが取れればこのレベルで十分」という線引きを自分たちですることが重要なのですね。

BIM導入のハードルを下げ、まずは使ってみるところから

志手

意匠設計以外、例えば構造や設備、施工現場との連携はどうされていますか?地方だと、まだBIM対応していないパートナーも多いと思いますが。

久家

構造設計者がBIMを使っていない場合は、構造図の部材断面をこちらで入力して、「ここをこのように納めたいので調整できませんか?」とBIMを見せながら相談します。その方が、図面だけで「ここが納まっていませんよ、どうしますか?」とメールや電話で何回もキャッチボールをするより、圧倒的に早いですね。設備に関しても、天井裏の納まりなどを立体で見せて、「ここは絶対に通したくない」といった意図を伝えています。

不動

「ここがマズい」「ここをこうしたい」というポイントを伝えるのには、やはり立体であるBIMのほうが伝わりやすいです。見積もりなどはまだ従来の図面ベースで行うこともありますが、現場で意図を伝えるコミュニケーションツールとしては非常に有効だと感じています。

久家

不動さんとご一緒したプロジェクトでは、360度アングルを変えられるパノラマパースを作成して現場のパソコンに入れておき、「困ったらこれを見てください」と伝えました。図面を見ても分からないという部分を、極力減らすための工夫です。

志手

なるほど。コミュニケーションツールとしても活用しているのですね。

テーマ04連携がもたらす、新しい設計の価値

地方だからこそ、BIMが武器になる理由

志手

お二人は地方で独立して事業に取り組んでいるという共通点もありますが、地方ならではの課題についてもお聞かせください。

久家

地方、特に私の地元(五島列島)では、若い人材が少なく、60代〜70代の現役も多くいます。彼らが引退した時、人材が一気にいなくなってしまうという危機感がありますね。

不動

人手不足は本当に深刻ですが、これを乗り越えればチャンスが広がるとも言えます。業界全体が暗い話題になりがちですが、マイナスな状況をなんとかプラスに転じていきたいですよね。そのひとつの解が、BIMを使った「効率化」や「協働」だと思っています。そのためにも私たちのように、事務所の枠を超えて、困った時に手伝ってもらえる関係性を作ることが大切かなと感じています。

一人で抱えない。チームで設計するという選択

久家

一人で抱え込むのではなく、チームで助け合い、補い合う。ひとりが行き詰まった時に出るアイデアは貧弱でも、仲間がいれば「ちょっとこうしたら?」という意見をもらって案が格段に良くなることもあります。それに、単純にチームでやる方が楽しいですよね(笑)。楽しいことも苦しいことも共有できる仲間がいて、場合によっては全然違う土地の仕事を一緒にやって、仲間と会ったりする、という働き方が面白いなと思っています。

志手

最後に、これからBIMを導入しようとする方々へ、アドバイスをいただけますか?

不動

導入のハードルは高いと感じるかもしれませんが、スキルがある人と一緒にプロジェクトをやってみるのが一番の近道だと思います。「0から10まで全部ひとりで」ではなく、とりあえずプロジェクトに入ってみて、やりながら実感を伴って覚えていくのが良いのではないでしょうか。

久家

最初はハードルを下げて、慣れた方法(CAD)に戻せば、巻き返すことができるギリギリまではBIMで粘ってみる、といった柔軟性があってもいいと思います。全部を3Dで描く必要はない、ということを理解して、まずはやってみることが大事かなと思います。

不動

今は、ウェブブラウザからBIMデータを見られる環境も整っています。必ずしもソフトウェアを開かなくてもプロジェクトに関われるので、そういったところから経験してもらうのも良いかもしれません。

志手

BIMは単なる便利な製図ツールではなく、離れた場所をつなぎ、人と知恵をつなぎ、地方の事務所が抱える課題を突破する「武器」になり得るものだと感じました。「習うより慣れろ」、そして「まずは使ってみる」ことが重要ですね。

離れた場所にいても、同じモデルを囲めば、チームになれる――。本記事は、BIMが地方の設計者にとって「効率化のツール」ではなく、人と知恵をつなぐための実践的な武器であることを示してくれました。

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