BIM 導入
2016 年3月。民間企業の改修計画提案を行っており、概ね方針が固まったところで、クライアントから会社の承認をもらうために内観パースが必要となり、なければこのプロジェクトは進まない、とのこと。期限は1カ月。手元にあるツールは二次元CAD、手書きスケッチ、住宅用パースソフト。
そこで考えている時間はなく、今後のこともあるので自分でやってみようと、3DCADやBIMの体験版をダウンロードして手あたり次第に取り組むこと数日。慌てていることもあってなかなかすぐに建物にはなりませんでしたが、1つだけ、なぜか自然に建物ができてきたのがGLOOBEでした。
結果的にプレゼンは高く評価され、修正のためにGLOOBEを導入し、受注となりました。
活用
導入から数カ月後、BIMを使ったプレゼンは当たり前になり、飛躍的に対応件数は増えました。レンダリングなどに要する時間がかかって滞り始めたため、当時市販品では最も高価なパソコンを購入したところ、パソコンの処理能力と自身の慣れで作図速度は3倍以上に向上しました。メーカーが推奨する動作環境でCPU は「Intel Core i7」となっていますが、弊社では同じくIntel社のXeonという高性能CPUと、ビデオメモリ4GBを搭載するパソコンをカスタマイズしてメモリは32GB。7年以上使用していますが、まだ市販品最新型のCore i7より早いです。
以降、現在まで、依頼を受けた物件は、初期計画から、実施設計、工事監理段階まで全てのフェーズでBIMを活用しています。基本計画段階では、1回目の提案提出からイメージがわかる程度の外観パースを添えています。初回ヒアリングでクライアントの要望イメージがある場合とイメージがない場合がありますが、それぞれ提案も含めて作成します。小規模~中規模までは、1日~2日あれば大抵できてしまいます。
基本設計、実施設計において、GLOOBEはCADに変わる二次元図作成も可能で、2件ほど使ってみました。結果は、慣れれば使えますが、長年培ったCADの方がまだ早いと、現在は全物件BIMとCADを並行して使っています。打ち合わせにはCAD図とパースがセットで、図面では理解してもらうことが難しいところはパースで補完するなど、わかりやすい提案、設計を行っています。

設計で作成したBIMデータは、工事監理段階における材料の最終決定に使用します。全体のイメージがつかみやすいので、カタログは減ります。合意した内観パースなどは施工者にも共有し、工事中の各室には内観パースが貼ってある現場が多く、間違えることがなく現場の仕上げが進みます。
社内体制
BIM 導入時、この部門は1名でしたが、現在は6台のBIMを使用して計画から実施設計を行っています。スタッフが増える過程で、中途、新卒に関わらず、入社後当面はBIMを使えるようになることを優先しています。CADが使える中途社員はBIM活用を行うことで、デザイン検討、プレゼン力も含めた設計の幅が広がります。新卒の教育としてBIMは好都合で、建築物の構造など各部の構成、材料の名称、寸法など、画面の中で全て可視化しながら立体的な作図を進めることができるため、説明しやすく、わかりやすく、建築を理解することができています。
インターンシップでのBIM活用
弊社では、工業高校生、大学生のインターンシップを積極的に受け入れています。これまで20名以上はお越しいただいており、2日~3週間など期間の幅はありますが、先進的な設計としてBIMを体験してもらっています。
他のBIMや3DCADを使っている学生もいますがGLOOBEは操作性が良く、学校で学んだ知識程度でメーカーのマニュアルに従って入力をしてもらえば、こちらの手間はあまりかからず、経験者、未経験者を問わず期間が終わる頃には全員がある程度の外観パース、内観パースの画像データを持ち帰ってもらうことができています。余裕があれば学校で作成した作品を3D化できた学生もいます。
同じメニューで2週間かかる学生もいれば、1日でできてしまった学生もいました。1日でできた当時の学生は、現在私の隣の席におり、先輩社員の二次元図をサクッと3次元化し、活躍中です。
育成、普及活動
社内での育成の他に普及活動も行っており、BIMメーカーによる全国向けオンラインセミナーのプレゼンターやBIMセミナーの講師も行っています。
静岡会主催の「BIM初心者の為の講習会」を、2023年12月と2024年1月の2日間にわたって行い、参加者人数分のパソコンを準備して実際にBIMの操作手順を体験してもらうことと、建築設計者の実務上のBIM利用について、実際にBIMを操作してもらいながら説明しました。
2 日間で終わらないと困るため、募集時は「GLOOBEを導入しているが活用できていない方」を対象にしましたが、結果としてGLOOBEを触ったことがない方ばかりの参加でした。1日目は、BIMで何ができるのかを知ってもらうために、コマンドの説明から、メーカーのマニュアルに沿って建物を入力していく作業を行いました。
年配の方には少々お手伝いもしましたが、学生とはレベルが違い、皆さん建築設計の実務者で用語や建物の構成が理解できており、GLOOBEは建築材料が全てわかりやすいため説明がしやすく、予定よりも早く受講者全員が4時間程度でパソコンの中に立体の建築物ができ、外観パースまでできあがりました。
2 日目は内観パースで各々インテリアまで楽しんでもらってから、メーカーのマニュアルには記載のない表現力が上がるレンダリングを行い、午後は予定外でしたが、BIMから実施設計図面を作成する手順なども体験してもらうことができました。
購入を検討されている方向けにはデータをお預かりし、自社のPCでV-Styleによる煌びやかなレンダリング画像をお送りしたところ、即導入されたとのことでした。

自社本社事務所の設計
2016年夏、GLOOBEを導入してから半年後、自社の本社事務所建て替え構想が始まり、10月の社員総会でサプライズ公表をするために、みんなが帰ってから新事務所の計画を練りました。
今思えばまだまだ未熟ながらも、コンセプトづくりからBIMで行いました。コンセプトは「省エネ建築」。当時は、まだ「ZEB」「サステナブル」などの言葉が一般的ではない時代で、外観とエネルギー削減をどのように両立するかが課題でした。
夏季日射遮蔽、冬季日射取得、トップライトからの採光と遮蔽、室内の明るさ、これらはBIM上で季節ごとの太陽を入力することにより画面上で可視化できます。BIM上で可視化しながらバランスを整え、同時に設備まで考慮しながら設計を進めました。法令検討と並行する開口部の大きさ検討も、外観、内観パースでイメージが容易です。

常盤工業 外観 (左)GLOOBE V-Style、(右)写真
ZEB の検討においては、窓を大きくして室内を明るくすると空調の外気負荷が増え、窓を小さくすると暗くなります。窓の面積が小さくても有効に太陽の光を得るシミュレーションは、BIMを使用して、時間ごとの室内の明るさやトップライトからの直達日射を遮蔽する屋根面ルーバーの効果なども画面上で確認しました。結果的には吹き抜け共用部に設けるトップライトをオフィスで囲み、外壁面からの外気負荷を低減しながら明るいオフィスになりました。
また、夏の午後に暑くなる西側壁面、開口部に対する日射遮蔽として、庇やルーバーを設けています。BIM を使用して、季節ごと、時間ごとのシミュレーションから庇の長さを決め、壁面ルーバーは太陽の方位角によって位置や羽根の向きを検討しました。開口部に対して夏季の日射を遮り、冬季の日射は取り込み、空調エネルギーを削減しながらも快適な室内環境になっています。
結果としてパッシブ型の省エネ建築物となり、外気負荷を低減できたことにより現在は「ZEB」で運用し、年間2,000名を超える来場者がいます。

設計には、基本設計3年、実施設計1年を要しました。当然お客様の設計業務が優先ですからなかなか進まず、数週間作業が停滞することが多く、余裕があるときには中堅、若手のスタッフと一緒に同時に3人でチーム機能を用いて実施設計図の約8割をBIMで作成しました。
自社の設計ですから人件費を考える必要がなく、いろいろと研究ができた良い機会となり、BIMを使う能力は格段に向上しました。自社の建物は自由にパースを公開することができるため、セミナー講師に声がかかるなどBIMの普及にも関わることができました。
今後の社会的なBIM化加速に貢献し、普及されることを期待しています。

常盤工業 内観吹き抜け (左上)GLOOBE V-Style、(右上)写真
常盤工業 外観夜景 (左下)GLOOBE V-Style、(右下)写真