導入事例地方の建築士事務所におけるBIM奮闘記

2025.06.02

坂本 拓三

(株)坂本建築設計事務所(島根会)

弊社は島根の建築士事務所です。基本的に意匠と構造、積算など設備設計以外は内製化しており、約9名で公共民間問わず多様な用途で構造も種々の建物を設計しています。弊社はDXについても比較的進んでおり、グループウェアの導入や総務・経理系のデジタル化もCADシステム同様進めているところです。事務所の目標として、なるべくデザイン以外の作業はコンピューターに任せたいと考えています。著作権のこともあり限定的ですが、生成AIについても便利に活用しています。

BIM を導入した経緯、なぜArchicadを選んだのか

弊社で最初に3DCADを導入したのは2000年頃です。当時購入したのはArchicad6.5で、パソコンのOS をWindows95 からWindows2000 に更新するにあたり、3DCADとして1ライセンス導入しました。当時はパース作成用に購入しており、通常の2DCADで作図しDXFファイルを介してArchicadでパースを作成する程度の使い方で、まだBIMという概念が普及していない時代でした。その後2012年頃、OSをWindows 7に更新する際に当時使用していたCADがWindows7に非対応となったので、CADを更新せざるを得なくなり、BIMの全面導入に至りました。

当時BIMソフトは3社でしたが、GLOOBEが開発途上で試用版しかなく、RevitにするかArchicadにするかを検討し、価格(当時はサブスクではなく買い取りのみ)面、操作性が2DCADに近いことと日本仕様へのローカライズに対する姿勢から、Archicadを選定しました。現在はレギュラー版を7ライセンス使用しています。詳細図の細かいところは2Dモードで描いており、ここは何とか改善してデータ化していきたいところです。

BIM 導入に伴うハード面の整備

ここ10年ぐらいCPUやOSの進歩は遅くなっており、一昔前のように数年ごとにPCの入れ替えをする必要もなく、ハード面の整備はグラフィックボードを必要に応じて入れ替える程度となっています。グラフィックボードを入れ替えたいので、弊社のPCは基本的にデスクトップ型です。

現在のPCのスペックはCPUがRyzen9でメモリーは64GB、GPU は当初NVIDIAのQuadroP5000 でしたが現在は RTX 3080程度です。ディスプレイは24インチ以上のマルチモニターです。

社内におけるBIMの導入状況

BIMを導入してもモデリングではなくCADとして2Dモードで描いていた状態から12年経ち、以前のCADデータが残っている改修案件以外はすべてBIMでモデリングしています。構造図もBIMでモデリングしていますので、意匠図と構造図で齟齬がおこることがなく施工現場でどちらを優先するか混乱することがなくなりました。また、平面図、建具表、仕上表、展開図等がリンクしていますので、建具が変更になった際でも他図面の修正は不要となります。

設計の進め方も大きく変わってきました。BIMの一番良いところはデザインの早い段階でパースが作成できることです。若い所員や学生にとっては完成した建物がほぼ実物の状態で視覚的に表示されるようになるのは大変刺激的で、これが弊社でのBIM普及上大きな要因になったと思います。また照明のシミュレーションも精度が高く、内観パースを顧客に説明する際も大きなアドバンテージとなります。景観シミュレーションもGoogle Mapsと組み合わせて短時間で作成できるようになり、基本構想段階やプロポーザル等での提案力が強化されました。

Archicadの大きな利点の一つに「チームワーク」という共有プロジェクト機能があります。弊社規模の事務所でも、ちょっと規模の大きいプロジェクトだと同時に数人がかりで設計していく必要があるので、必須の機能となっています。

地方におけるBIM普及の取り組み、仲間ができる

島根会会員でもある経種俊幸氏が主宰している山陰Archicad フォーラムという団体が松江市にあります。会員は30名程度ですが販売代理店の会議室を会場として2カ月に一度程度定例勉強会を開催しており、全国から達人の講師をお呼びしています。

山陰Archicadフォーラム

初心者や大学生の参加も多く、全国的な交流を深める機会になっています。Archicadの良い点はこのようなユーザーグループが各地にあり、気の置けないBIM 仲間が容易にできることではないかと思います。

また、教育機関が無償でライセンスを使えるのも大変素晴らしい取り組みだと思います。前出の山陰Archicad フォーラムは松江工業高校の生徒へのBIM指導もしており、島根会主催の高校生設計コンクールでもBIMを使用した作品が増えてきています。

ただ、島根県内ではなかなかBIMの普及は進んでいません。建築確認のBIM図面審査化をにらんで県がようやくBIMを導入し始めた段階です。島根会としても手をこまねいているわけにはいかず講習会を何回か開催していますが、入門編でとどまっており今後も地道に続けていく必要があります。

BIM の導入により生産性は上がったのか

BIMの導入により弊社の生産性は上がりましたが、地方の建築士事務所単体では効果が限定的だなと最近考えています。と言いますのも、設計図面の整合性を上げること、建築仮設をもれなくBIMで検討することは、施工現場においてより生産性向上効果が出るからです。同様に鉄骨ファブ業界からも建築士事務所から直接3Dデータを提供してほしいとの要望が上がっていますが、このことからもBIM導入が施工現場の手戻りを少なくすることにつながると考えます(島根県の鉄骨ファブ各社は、REAL4という3DCAD/CAMを導入しているとのことです)。当然維持管理まで考慮に入れ、建築業界全体でBIMを導入していく必要があります。しかし、重層下請け構造の建築業界ですから、末端までBIMを行き渡らせるのには時間がかかります。地方の公共団体や工務店、協力会社にまで普及するのを待つ必要があります。同時にBIMの普及は施工現場での手戻りを少なくし、熟練労働者不足を補う効果が期待されています。

将来に向けて

今、弊社がBIM関連で力を入れているのが建築積算でのBIM導入です。なかなか今まで実効性がなかったのですが、ようやく展望が見えてきたような気がします。(公社)日本建築積算協会も昨年BIM概算ガイドブックを作成しています。これを基にいろいろな建築積算データが蓄積されていきますので、大手建設会社等からもデータを出してもらえるようになれば、ビッグデータとして我々のような地方の建築士事務所でも設計早期に確度の高い概算工事費算出が可能になってくるのではないでしょうか。

また、2026年から建築確認におけるBIM図面審査が始まり、2029年からはBIMデータ審査が始まる予定です。ここでBIM各社の日本に対するローカライズの差が出てくるのではないでしょうか。弊社もグラフィソフト社がうまく対応してくれることを切に願っています。

設備設計のBIM化については模索中です。外注先にBIMを導入してもらわないことには前に進みません。

最後に、一番必要なのはJw_cadのような手軽な共通BIMソフトだと考えます。BlenderBIMやRhinoceros等のIFCが編集できるソフトのアドオンとして日事連および建設業界が力を合わせて簡易的BIMソフトを開発しないと、地方の公共団体や工務店、協力会社には普及しないのではないでしょうか。弊社はBIMを常用していますが、公共団体や地元工務店ではJw_cadを使用しているところが多く、そのフォーマットでのデータ要望がよくあります。同様に今後はIFCデータでのやりとりが中心になりますので、IFCデータ形式の充実と簡易的BIMソフトの開発に期待します。

BIMの活用事例

カーディーラー (左)外観CG、(右)外観写真
浜田警察署 (左)外観CG、(右)外観写真

記事に関するご意見・ご感想はこちら

プロフィール

坂本 拓三(さかもと・たくぞう)

名古屋工業大学博士前期課程修了後、RIA建築綜合研究所(現アール・アイ・エー)入所。2004年より(株)坂本建築設計事務所代表取締役。08年より(一社)島根県建築士事務所協会常務理事、副会長を経て24年会長就任。02年~島根大学総合理工学部嘱託講師。一級建築士、技術士(建設部門)MBA。