BIM を導入した経緯
少し前のことですが、社内の業務内容を分析したところ、多忙な割に生産性が向上していないことに気づき、頭を痛めていました。特に設計業務において、図面間の整合性のチェックや協力業者との連携において無駄が多く、本来建築士として取り組むべき設計に割ける時間が奪われているように感じました。また、申請内容の複雑化などにより利益に反映しづらい雑務も増え、設計業界を生き残るためには改革が必要だと考えていました。ちょうどその頃、「BIM」という言葉を業界で耳にするようになり、導入を検討することにしました。
さまざまなBIMソフトがある中で、まず日本の設計手法や建築基準法にマッチしている点にメリットを感じ、福井コンピュータアーキテクトのGLOOBEを導入しました。実際に計画案件のプランニングや法検討に使用し、スピーディーかつ正確に作図検討できることに便利さを実感する一方、その時点ではBIMを実施設計で使用することに対してハードルが高く感じ、実施設計は従来通り2DCADを使用していました。結果的に取り組みが中途半端で、BIM導入のメリットを十分に生かすことができませんでした。その後、社内で改めてBIMの積極的な導入を検討し、使いやすさやチームワークのしやすさなどを基準に考慮した結果、GLOOBEに加えて比較的多くの方が使用していて汎用性の高いGRAPHISOFTのArchicadを導入することを決定し、2DCADからBIMへの完全シフトに向けて舵を切りました。
BIM の学習方法
当初はスタッフ各自に書籍などによる学習を促し、実務で使いながらスキルアップすることを目指していました。しかしながら、日常の実務の合間に書籍を見ながらスキルアップすることには限界があり、なかなか進まず、気が付くと2DCADを使っているという状態が見られました。そんな折、GRAPHISOFTの営業の方から、BIM Classes の導入を勧められました。BIM Classes は BIMを習得するためのオンラインスクールで、初級から上級まで豊富なコースが用意されています。各自の習得状況に応じてコースを選択し、必要なスキルを身に着けることができます。各自が意欲的に受講して情報交換し、実際に使ってみることにより達成感が得られ、着実にスキルアップしています。設計を進める中でわからない点が出たときは、後で該当するコースを見返すこともできるので、大変役立っています。今後もBIM Classesを活用しながらスキルアップを図っていきたいと考えています。
【事例1】マンションのリノベーション
95㎡程度のマンションリノベーションで使用しました。BIMを使用することにより建物の3D形状を明確にし、現況と照らし合わせて表現することで、建築主とのコミュニケーションをより円滑にすることができました。特にArchicadのリノベーションフィルタという機能が効果的でした。この機能はデフォルトで「既設」「解体」「新設」のフィルタが用意されており、簡単なコマンド操作により既存要素だけ表示、解体要素だけ表示させるなどの表示変更が可能です。
改修図面を作成する時に便利なリノベーションフィルタですが、A案、B案……と何案もある時や、変更時に変更前のプランを残しておきたい時のプラン切替を簡単に行うことも可能です。リノベーションプロジェクトでは設計変更が頻繁に発生することがありますが、BIM を使用することで、変更点が素早く全体のプロジェクトに反映され視覚化されるため、迅速な意思決定が可能となり、建築主や施工業者がリノベーションの見通しを把握しやすくなる利点があると考えています。
【事例2】新築物件
1,000㎡程度の葬儀会館の実施設計で使用しました。BIMはプランニングと同時に3Dモデリングができるため、建物の見え方やボリュームを効率よく検討することが可能になりました。建築主の要望に応じ、社内ミーティングを重ねながらさまざまなプランを作成しましたが、最終的に納得のいく建物ができたと感じています。
また、TwinmotionにBIMデータを取り込むと、建物に使用する建材の質感や、時間や天候の移り変わりによる太陽光の当たり方、さらに夜間のライティングや室内のライティングについてもシミュレーションすることができます。加えてVRを活用することにより、計画段階で建物のボリュームや部屋の広さ感のリアルな感覚がつかめ、建築主に対して臨場感あふれるプレゼンテーションを行うこともできました。これまで図面やパースだけで、建築主に設計内容を十分理解してもらうことに限界を感じていましたが、VRにより建築主に建物のボリュームや部屋の広さ感を直感的に体感してもらい、正確なイメージを共有することが可能になりました。VRゴーグルの操作も建築主には好評で、「ゲーム感覚で楽しい」「本当に現地にいるみたいだ」などの声が上がり、プレゼンテーションのツールとして有効だと感じました。
実施設計ではチームワーク機能を使用することで、社内だけではなく、リモートワークをしているスタッフも含めて複数で同じデータを編集し、コミュニケーションをとりながらチームで設計を進めることができました。
BIM を活用して理解できたこと
BIMは大変有用なツールです。しかしながらBIMはあくまでもツールに過ぎず、より良い建築のためには人間力が欠かせないことに変わりはありません。BIM により、これまで作図や図面の整合性チェックに費やしてきた余分な労力や時間を削減し、その労力や時間をよりクリエイティブな作業や設計のスキルアップに充てることができれば、BIMを導入するメリットが大きいと思います。意匠設計だけでなく、構造設計・設備設計とさらにチームの輪を広げていけば、さらなる効率・精度向上につながります。加えて設計だけにとどまらず施工ともデータを共有すれば、積算・見積の効率化と精度向上、さらに施工ミスの削減を図ることができます。またその後も、BIMデータを竣工後のメンテナンス・運用に役立てることもできます。そのようにしてBIMデータが設計時・建設時・運用時と、建物のライフサイクルに合わせてずっと更新され、生きたデータであり続けるなら、SDGsで謳われる持続可能な世界づくりにも貢献できるかと考えます。
今後の展望
BIM は今後の設計業界において必須のツールとなることを確信しています。かつて2DCADの導入が設計業界を大きく変えたように、BIMにより設計業界のイノベーションが進むと予想しています。弊社としてその潮流に乗り遅れないようにしたい、いやその先頭に立つべく今後もBIMを積極的に推進していく所存です。今はまだBIMは大手組織事務所やハウスメーカーが使うものだと敬遠されがちですが、中小事務所でもBIM を導入するメリットがあることをいろんな機会に訴えながら、BIMの導入を他業者にも勧めていきたいと思っています。BIMの導入を促進することによりチームの輪を広げ、みんなでBIM導入による恩恵を享受し、設計業界の未来ひいては日本の未来を切り拓いていきたいと考えています。