BIM を導入した経緯、ハード面の整備状況
私が入社した39年前は当然ドラフターを使った手書きでした。1993年に福井コンピュータアーキテクト(株)の3次元CAD・ARCHIEAGLEを導入、その後、BIMを雑誌やAutodesk社の広告で知り、2004年にBIMソフトのRevit6.1を自費で購入し試してみることにしました。
Revit を使用するためには高スペックのパソコンが必要となりますが、RevitはCPUのパワーが最も重要で、シングルスレッドの能力が極めて重要とのことです。他との比較検証はしていませんが、BIMを使いこなすには、ある程度のスペックのパソコンが必要となります。
〇使用しているパソコンの一例
OS :Windows11Pro 64 ビット
CPU:インテルCore i7-12700(2.10GHz-4.8GHz/12 コア /20 スレッド)
グラフィックス機能:
NVIDIA GeForce RTX3060 12GB GDDR6(HDMI×1 DisplayPort ×3)
メモリ :32GB
SSD :1TB NVMe SSD
モニター:LGの30インチ
社内コラボレーションは、中央ファイルをプロジェクト担当者のパソコンに設定して各担当者が社内ネットワークでアクセスし共同作業をしており、外部とはクラウドコラボレートで行っています。
BIM を導入したことによる変化
設計初期段階での検討が容易にでき、建築設計の品質・性能が向上し、2Dの課題となる手戻りや齟齬の修正作業が激減しています。社内では中央モデルデータが同期で常に最新のファイル状況となるので、「変更したからちょっと同期して確認をして」と2D作業で抱えていた業務の進め方における課題を、BIMを使うことによってほとんど解決できていると感じています。
社内の状況と取り組み
技術者8名に対して、BIMソフトを5ライセンス導入しています。稼働率は80%です。技術者は、専門学校での修得者が2名、入社時に有料の基本BIM講習会の受講者が1名、日事連のオンライン講習「BIM技術者に対する技法、技術研修」の受講者が1名という状況です。社内に複数の経験者が揃うと、使用しながら操作を習得、これが一番効率的のようです。テンプレートや決まりごとを周知し、不明な操作方法は私が指導しています。
また、新潟会の高校生のインターンシップ・デュアルシステムで、過去に3名の学生を受け入れました。基本操作を教えた後に、自宅のBIMモデルを一緒に作成し、完成後のモデルを成果品としてプリントアウト、それを持って帰ると家族が大変喜んでくれたと、体験した学生が嬉しそうに話してくれました。
社内でBIMを普及するために、とにかくBIMで業務を進めるようにしています。社内マニュアル・テンプレートはアドインソフトのBooT.oneを基本とし、弊社の図枠や2DCAD読込ファイルテンプレートを作成、色従属、線種の変換を自社仕様に合わせて既存データを読み込み編集作業を行っています。ですが、BIMで全ての設計を行うことは得策ではありません。今までのCADデータを利用し2D図面編集を併用し、部分詳細図作成や展開図の目地入れなど線描画で加筆して仕上げると効率的です。
若い人は短期間でBIMの操作を習得します。BIMを使用することで、まずモデル空間で建物の建設を経験し、その後、実際の建設現場で建設経過を体験するので、2Dの時よりも短期間で建築の知識を吸収し成長していると感じています。
BIM を使って地域に根ざした施設設計
BIM は3Dモデリングや建築情報を統合管理するシステムです。これを利用することで、建物の各要素や設備などを詳細にデザインすることができます。私どもは、地域の特性や風土を反映させた設計情報を組み込み、BIMによりデザインを具体化し、顧客へ提案しています。その土地に住んでいますので当然わかってはいますが、気候データをサブスクリプションサービスのGreen Building Studio から収集し、さらにデータを提示してその土地の特性に対応した設計を行っています。
BIM の最大の特徴「視覚」を刺激
施設の外観や内部レイアウトをリアルな形で可視化することにより、発注者は施設のイメージを具体的に把握することができます。私どもとの意見交換もスムーズに行うことができ、デザイン変更や修正もストレスなく容易に行うことが可能です。そして、建物の外観や内部のデザインには、地元の慣れ親しんだ建築や伝統的な要素を取り入れることで、地域のアイデンティティーを表しています。そのイメージを3Dモデルで表現し、基本設計段階から提案の特徴をわかりやすく視覚的に伝えています。
発注者側にもこの手法は革新的なアプローチとして受け止められています。発注者の要望や地域の特性を織り込んだ施設を提案することで、顧客満足度の向上や地域の発展に貢献することができ、地域に愛される施設づくりがより高品質で容易にできるようになりました。
BIM のデメリット
しかしメリットもあれば、デメリットもあります。一つは情報の過多です。BIMは建物のあらゆる情報を一元化し、容易にアクセスできるようにするため、情報量が増加します。これにより、必要な情報を見つけるのに時間がかかったり、情報の整理が難しくなったりするかもしれません。このデメリットを対処するためには、効果的な情報管理の方法を確立することが重要です。例えば、BIMのデータベースを適切にフォルダに整理し検索機能を使用することで、必要な情報に素早くアクセスできます。
そしてもう一つのデメリットは導入コストです。BIM は専用のソフトウェアやハードウェアを必要とするため、導入コストが高くなってしまいます。特に中小企業や個人事業主にとっては、この負担が大きいかもしれません。このデメリットを克服するためには、コスト効率の良い導入方法を模索することが重要です。例えば、サブスクリプションを活用することで、導入コストを抑えつつBIMの恩恵を享受することができます。また、国土交通省では、令和5年度補正予算において建築BIM加速化事業を引き続き実施しており、小規模プロジェクトや改修プロジェクトも対象として支援が行われています。
BIM のデメリットはありますが、それらを克服する方法も存在します。新たなアプローチや支援制度を取り入れることで、BIMの利点を最大限に引き出すことができるのです。設計業務においてBIMを活用する際は、デメリットにも目を向けつつ、さまざまな制度やメーカーのシステムを利用しながら取り組むことが、活用するための重要なポイントでもあります。
また、BIM確認申請への取り組みも必要となってきます。2025年にBIM図面審査が始まり、2027年には全国展開するとのことです。BIMデータから出力されたIFCデータとPDF図面の提出により、図面間の整合チェックが不要となり審査期間の短縮化が期待されています。弊社も対応できるよう怠りなく準備を行い、業務の効率化を図りたいと考えています。
他社とのコラボレーション
現在進行中のプロジェクトは、Archicadを使用している事務所と役割分担をして進めています。IFCの読み込みでモデルの確認はできますが、使用しているソフトが異なるため、BIMモデルの編集を共同して行うことは簡単にはできません。さまざまなカテゴリー(構造用、設備用など)を拡張子rvtで書き出してもらい検証しましたが、どれもそのデータを利用してオブジェクトをRevitモデルの床や壁には変換できませんでした。フロア毎にArchicadとRevitで分担することも考えましたが効率的ではないため、BIMモデルの作成はArchicadで、2D編集の単独作成が可能な図面を弊社で作成し、DWGに書き出しをしてまとめることにしました。他社とのコラボレーションでBIMプロジェクトをまとめる最善の方法として、同じソフトを使って進めることをお勧めします。
Revit 同士の連携としては、既設建物のモデル入力を外注事務所に単独で仕上げてもらい、その間、弊社で計画を検討し、増築部分や外構の検討を行うことで、限られた期間の中で効率的に業務を進めることができました。
本来、BIMモデルを共有すれば最新モデルでスムーズに連携できるのですが、新潟は特に構造設計、設備設計でBIMに取り組んでいる事務所が少ないため、こちらでDWGに書き出し、更にJWWへ変換し、変更部分に注釈をつけて図面データのやり取りをしている状況です。構造モデルも仮定断面の情報をもらい、こちらで入力し計算確定後、またこちらで断面を訂正(2D出力の部分のみ)しているため、負担の多い状況です。
BIM ソフトは毎年バージョンアップをしており、私が取り組み始めた頃に比べると、格段に使いやすくなってきています。今後は、若手所員の建築知識の向上を期待し、さらなる設計品質のアップを目指して取り組んでいこうと思っています。
最後に
これからBIMに取り組んでみようと思っているホームタウン(地方)で頑張っている若い設計者の皆さんへ、これからのホームタウン(地方)は皆さんがつくっていくのです。ぜひたくさんの経験をしてください。たくさんの経験がいい仕事を生みます。BIMへのチャレンジはきっと技術者として幸運を生むツールになると確信しています。今回の活用事例の紹介が各地域でのBIM推進の一助となれば幸いです。
BIM の活用事例
プロフィール
近山 富貴(ちかやま・とみたか)
1985 年中央工学校建築設計科卒業、(株)堤建築設計事務所に入社。2018 年代表取締役に就任、現在に至る。20年前からBIMに取り組み試行錯誤をしながらも、ようやく事務所内で実施設計まで使いこなすまでに到達。新潟というホームタウンは、私にとって特別な場所です。大好きな新潟で、建築設計の分野で貢献するという夢をこれからも追い続けていきます。